180928 原作:葉室 麟(「蜩ノ記」など。昨年末、66歳で没しており、エンドロールの最後に、原作者に捧ぐという字幕が)撮影・監督:木村大作
佳作。いかにも木村大作好みの、美しい四季折々の風景が随所に織り込まれ、静謐な画面構成に惹かれる。雪のシーンで始まり、同じく雪で終わる。雪を踏むザクザクした音、風になびくススキの穂、紅葉する山々、遠くに残雪の残る山襞、そしてもちろん大きな椿の木である。また、場面に寄り添う加古 隆の通奏低音のごとき音楽も深く印象に残る。
原作は読んでいないが、藤沢周平が好んで描いた世界観に似ている。享保15年(1730)の扇野藩(架空)での話。よくある話で、城代家老の悪事に下の者が気づき、藩が真っ二つに割れての騒動に。そこに男女のワケありの愛、家族愛などを絡ませ、犠牲者多数出るも、最後は勧善懲悪でジ・エンド。
かつて四天王の言われた剣の達人同士、1人の女性を巡って因縁あるものの、どうした真剣で斬り合わねばならないのか。散り始めた椿の木の前でのこのシーンは、本作最大の見せ場の一つ。
岡田准一はこうした役がすっかり板に付いた。殺陣のスタッフとしても、また撮影スタッフにも名が見える。
麻生久美子は初めて見たが、和服もよく似合うし、ぴったりのキャスティング!黒木 華は言うまでもない。
ラストでの殺陣のシーンには、木村大作自身も斬られ役で映ったらしいが、気づかなかった。それにしても自信満々の西島秀俊が、至近から弓を射られて、あっけなく死ぬシーンは、何か違和感が残った。血しぶきが凄まじかった。あれは黒沢流なのかも。
クレジットロールでは、すべて自筆の名前が並ぶが、まあみんな字が下手くそで笑える。達筆ではないが、デザイン的で味わいのあるのが木村大作と加古 隆のみ。今の人は字を書く機会がなくなったから無理もないが、せめて自分の名前ぐらい立派に書いて欲しい。
#73 画像はALLCINEMA on lineから。