150723 原題：LOCKE（ロックという主人公の名前）、８６分、英米合作 [監・脚]スティーヴン・ナイト
変わった作品だ。顔の見える俳優は主人公を演じるトム・ハーディーただ一人。他は声、それも電話を通じた声のみ。更に、前編を通じてBMW車内の主人公の顔だけ。そうでないカットは、冒頭、勤務先で愛車に乗り込む場面、途中、カメラがパンして高速を疾走する車の列を追う場面、そしてラスト、高速を降りて、目的地へ向かう場面だけ。
これは舞台劇でも上演可能だろう。また、劇の進行時間と実際の時間がシンクロする方式で、「ハイヌーン」などと同じ。まさに８６分間、観衆は主人公の過ごした時間をそのまま劇場で体感することに。
仕事も家庭も、順風満帆の主人公アイヴァン、明日重要な仕事を控え、バーミンガムから家族の住むロンドンへ帰り、愛妻、息子たちと夕食を食べながら、サッカー観戦をしようと高速へ乗り入れる。
そこへかかってきた一本の電話で、別方向に舵を切ってしまう、まさかの展開！８６分の間に仕事も家庭も、共に失うことになろうとは！！それも、別に愛しているわけでもない女のために。男の矜持、潔さですか。大昔のたった一度の過ちなのに。相手の女との電話でやりとりが、これ。ベサンが相手の女。
高速道路を走りながら、かかったりかけたりする３６本もの通話だけで進行しながら、最後まで観衆を飽きさせないスクリプトの完成度の高さに驚嘆せざるを得ない。
この作品、わずか６日で撮影したとか。トムは実際に車を走らせ、他のキャストはホテルの一室にいて、それぞれ電話でやりとりして撮影が進行していったとか。実際風邪をこじらせていたトムのために脚本を一部書き換えたり、ガソリンが減ったことを知らせる警告がしつこく流れるのをトムがイライラするため、"You have a call waiting"という自動音声に変更したりと、それなりの苦労はあったとしても、製作費は随分安く上がったろう。（大きなお世話だが。）
たった１時間半で、人生が激変するわけで、苦悩するトムの表情の変化のつけかたはさすがだ。目の下のたるみが終盤、かなり目立つように演じている。
このところ、立て続けにトム・ハーディー出演作を見ることになった。「チャイルド４４ 森に消えた子供たち」と「マッドマックス 怒りのデスロード」。まったく異なるキャラクターを演じ分ける力量は恐れ入る。この俳優、ちょっと見直した。
#57 画像はALLCINEMA on lineから
