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ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「未来よ こんにちは」

170328 原題:L'AVENIE (未来)この邦題は、多分に「悲しみよ こんにちは」を意識して決められたような気がする。仏・独合作 2016 監督はミア・ハンセン=ラブデンマーク系フランス人で、まだ36歳!

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監督自身の出身地でもあるパリ5区、いわゆるカルティエ・ラテンに暮らす中流の4人家族。主人公ナタリー(イザベル・ユペール)は高校で哲学を教えている。ドイツ人亭主ハインツも同じ哲学の教師という、典型的インテリ階級一家。娘と息子は、そうしたエリート階級の両親とは、やや距離を置いている。

居間の壁面は学術関係書籍がびっしり並ぶ、いかにも教職にある夫妻にふさわしい構えである。

折から学内では、現行政治への反発から険悪な雰囲気が一部に出始め、講義に赴こうとするナタリーすら誰何される始末。'68年紛争で行動的だったナタリーも、今は政治から距離を置き、敢えて学生の前では自分の政治思想は明らかにしない方針にしている。

ハインツとは、結婚した25年前から夫婦としてより、同士としての感情の方が優っていると自分では感じている。ただ、このダンナ、最近、挙動不審をナタリーではなく、娘に見透かされ、娘から不倫をなじられ、一刻も早くナタリーに告白してほしいと告げられる。

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一方、独り住まいをしている母親イヴェット⬆︎の健康状態が思わしくない。自分に学歴がないが故に、一人娘に哲学の先生になることを強く勧めたのはイヴェットであり、そのことに、ナタリーは感謝している。が、最近のナタリーへの甘えぶりは尋常ではなく、何かにつけて真夜中に電話をしてきたり、ちょっとしたことで救急車を呼ぶなど、ナタリーには大きな負担になっている。

時折連絡してくれる昔の教え子ファビアン(ロマン・コリンカ これがいい男なのだ。調べたら、なんとジャン・ルイ・トランティニャンの孫!)は、ナタリーに大きな感化を受けて、自身教師の道を選ぶが、今は著述を生活の糧にして、山岳地方で、アナキーっぽい仲間たちと共同生活を始めている。

ハインツは結局、若い恋人と出て行ってしまったし、母親の介護のこともあるが、そこそこ充実した日々を過ごすナタリーだった。

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⬆︎ファビアンの住む山岳地方の村を訪ね、数日間共同生活ぶりを体験するナタリー。籠の中は、イヴェットから預かった黒猫パンドラ。ナタリー自身は猫アレルギーだが、預かるしか選択肢がない。

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⬆︎別れたハインツ所有の夏の家がブルターニュにあり、毎年夏のバカンスを家族と過ごしたかけがえのない思い出の場所だが、もう来ることもないだろう。母親危篤の連絡が入り、急遽パリにとんぼ返り。最後は手こずった母親だったが、いなくなってみれば、涙が込み上げて来る。

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これから、どうなっちゃうんだろうと、考え込むこともあるナタリー、

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今の暮らしを大事にしながら、前向きに生きていこうと心に決めるナタリー。少しだけ当てにしていたファビアンとも、考え方の違いが次第に鮮明になり、この高原ともおさらばだ。

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この監督が名優イザベル・ユペールを想定して作った作品だけに、彼女の演技はことさら光を放っていて、この役は彼女以外の女優では難しかったと思えて来る。ユペールはすでに60歳を過ぎ、さすがに容姿はそれなりだが、演技力は断然増していると感じる。

劇中、突如響く歌声は、亡きディートリッヒ・フィッシャーディースカウの歌うシューベルト作曲のAuf dem Wasser zu Singen

またエンディング近くでは、The Fleetwoodsの歌うアンチェインド・メロディー、ラストは、Donovanの歌うDeep Peace. 間違いなく佳作!

#16 画像は、ALLCINEMA on lineから