ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

ダンケルク

170911 原題:DUNKIRK (これは英語表記、発音はダンカーク、一方、ダンケルクのあるフランスでは、DUNKERQUEと綴る)英米仏合作 106分 脚本・監督:クリストファー・ノーラン(「ダークナイト」、「インセプション」、「インターステラー」などなど、ほぼ全てが日本で公開されており、またその全てのタイトルがカタカナというのも面白い)

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世界の大戦史上、最大の作戦の一つ。1940年5月から6月にかけて、40万人近い連合軍側の兵士(ほとんどは英軍、一部仏軍)が独軍に海岸まで追い詰められ、絶体絶命のピンチ。4年後のD-Day(史上最大の作戦、ノルマンディー上陸作戦)に比べ、日本では、それほど知られていない。

この窮地を救ったのは首相になったばかりのウィンストン・チャーチルで、軍用船ほか、民間のボートを多数徴用、スピードの出ない小舟ゆえ、夜通し19時間もかけて現場へ向かい、疲れ切った丸腰の兵士のほとんどの救出に成功している。それにしても、季節が良かった!これが真冬だったら、こういう結果にはならなったかも知れない。

この時の話は、「つぐない」(2007, ジェームス・マカヴォイ、キーラ・ナイトリー)や「ミニヴァー夫人」(1942, グリア・ガーソン、テラサ・ライト、ウォルター・ピジョン)などにも挿話として登場する。

さて本作、撤退作戦(ダイナモ作戦)だけを描くから、単調になりがちだが、冒頭に1 week at the mole(突堤)、1 day on the ship, 1 hour in the skyという表示が出てくる。

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冒頭、若い陸士がダンケルクの街中を独軍の掃射を浴びながら、必死で海岸線まで逃げ延びる場面。ビーチに着けば、夥しい数の連合軍兵士の群れが海への撤収に備えている。どの顔も疲れ切って、精気がまったく感じられない。

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⬆︎未熟で若い兵士ばかりということから、ノーラン監督はあえて主役級の兵士に無名の若い俳優を充てている。トミー役はフィオン・ホワイトヘッド

チャーチルの呼びかけに呼応した民間の小型船が、一斉にテームズを下り、北海へと波を切る。

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空では、僅か3機のスピットファイアが編隊を組み、撤退作戦を阻もうと襲い掛かるドイツのメッサーシュミットや、爆撃機ユンカースに果敢に空中戦を仕掛ける。ユンカースには、特殊なサイレンが取り付けてあって、連合軍側からはジェリコのラッパと呼ばれことさら恐れられていた。これが聞こえ始めると、ほとんどパニッックに陥ったと言う。

こうして、突堤(陸)、ボート(海)、空中戦(空)の緊迫のシーンが頻繁に入れ替わり、観客を片時も飽きさせない。

という三層構成だが、その間、ティクティクという細かい時を刻む音をイメージしたサウンドが、通奏低音のように常に鳴っているのが印象に残る。ハンス・ジマーの音楽が緊張感を盛り上げている。

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⬆︎3機のスピットファイアーのうち、2機が撃ち落とされるが、そのうち1機は着水後、たまたまそばにいた民間船に救助される。

ほとんどが英軍兵士とは言え、中には一緒に連合軍として戦った仏軍兵士もいたのだが、非情にも乗船を断られる場面も。だが、ほとんが救出された後、突堤にいる撤収作戦責任者、ボルトン中佐(ケネス・ブラナー)は、自分はまだ残る。仏軍兵士も最後の一兵まで一緒に連れ帰るというセリフが印象に残る。

考えて見れば、独軍に侵攻された仏軍が弱く、英軍の力を借りて、この結果だから、立場が弱いのは仕方がない。さらに、近くのカレーでは、英軍が囮になって独軍を引きつけていて、ほぼ全滅したというから、英軍の払った犠牲はあまりにも大きい。

こうしてこの絶体絶命のダイナモ作戦も結果的には大成功で、この後の戦局に大きな貢献を果たすことになった。無事英国に帰れた兵士たちも、おめおめ敗残兵のごとく丸腰で逃げ帰ったことで、一般市民から罵倒されるのを覚悟していたら、暖かく歓迎され、面食らったという。

40万近い人的資源の保全に繋がり、この後のバトル・オブ・ブリテンを有利に戦えることになるわけで、もし失敗していれば、大ブリテン島ナチスに蹂躙されていたかも知れない。ついでに、この作戦の成功が、4年後のノルマンディー上陸作戦の成功をもたらしたと言えるだろう。太平洋戦争におけるミッドウェイ海戦のごとく、まさに運命を分けた戦い。

同じ大作戦でも、1944.6.6のノルマンディー上陸作戦との対比では、撤退作戦だから、兵士の意気も上がらぬどころか消沈しきっており、インパクトはまさに対照的とも言えるが、映画の出来栄えとしては、スティーブン・スピルバーグが撮った「プライベート・ライアン」(1998)に勝るとも劣らないと言えるのではないか。

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孤軍奮闘、最後まで頑張ったスピットフィアー、海岸に不時着して、独軍の捕虜となる。演じたトム・ハーディー、結果として一番出番が多かったようだ。

独軍との戦闘シーンもありながら、独軍の姿が一度も、画面に登場しないという不思議さ。唯一、トム・ハーディ演じるパイロットが捕まった時に、特徴ある独軍の鉄かぶとがシルエットとして映るのみ。

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タランティーノの「ヘイトフル・エイト」同様、フィルム撮影にこだわったノーラン監督は70mm、しかも高価なIMAXカメラを戦闘機に積み込んで迫力ある描写を狙った。ところが海に落ちた場面で、沈む速度が思いの外速く、その大事なカメラも水没するという事故にあったらしい。その割にスタッフたちに笑顔が。

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⬆︎ヘンリー王子から質問を受けるトム・ハーディーとマーク・ライランス

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#62 画像は主にIMDbから。