ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「セザンヌと過ごした時間」

170927 原題:CEZANNE ET MOI (セザンヌと私)仏 114分 脚・監:ダニエル・トンプソン(75歳、モナコ、「シェフと素顔と、おいしい時間 2002、「モンテーニュ通りのカフェ 2006)10年ぶりの監督作品。

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幼少時から仲良しだったゾラとセザンヌの生涯にわたる交友を、光溢るるプロヴァンスと、世紀末の香り漂うパリを舞台に、繊細に、まるで印象画の絵画のように描いてみせた作品。

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イタリア系というだけで、いじめの対象になった後の大文豪、エミール・ゾラギヨーム・カネダイアン・クリューガーの元旦那)を、当時裕福な家庭に育ったポール・セザンヌがかばったことから、二人の間に深い友情が芽生える。

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⬆︎典型的なプロヴァンスのカランク(断崖と入江)で制作中のセザンヌ(ギヨーム・ガリエンヌ)と妻(?)となるオルタンス(デボラ・フランソワ、「譜めくり女」2006 ,「タイピスト!」2010)

穏やかなゾラに対して、激しやすいセザンヌ、でも二人に共通するのは、有り余る才能。それはお互いに認め合っているのだが、後年、女友達やささいなことで、しばしば対立し、激論になるが、深いところでは固い絆で結ばれているから、決定的断絶には至らない。

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⬆︎パリ近郊(市心から直線距離で約60km)のメダンに大邸宅を構えるゾラ。「居酒屋」が空前のヒットで、印税がたっぷり。

一方、まったく売れないセザンヌは没落して、立場は完全に逆転している。

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なんどもエクス・アン・プロヴァンスを訪れては、さまざまな忠告をセザンヌに与えるも聞く耳を持たない。「君は天才なんだよ!」と言い続けるのはゾラのみ。(尤も、後年、ゾラはセザンヌと絶交するが、原因は諸説あるそうだ。)

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サント・ヴィクトワール山を眺めて、ハッと気づくセザンヌ。ここからセザンヌの世界が始まるのだが・・・

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⬆︎独特のセザンヌ・タッチが見られる画面。この後、絵仲間のアシールが「エミール・ゾラが来てるぞ」と告げると、一瞬腰を浮かせつつ、再び制作に戻る。だがしかし、この後、突然何かに打たれたように、村へ駆け下り、セザンヌが村人相手に談話している姿を群衆越しに懐かしく眺めるセザンヌ。ゾラは「セザンヌは天才!だが、まだ描けていない」と。

結局のところ、セザンヌは生前、ほとんど落選を繰り返し、認めらるようになるのは晩年であり、更に評価が高まり定着するのは死後ということになる。画商のアンブロワーズ・ヴォラールが早くからセザンヌに目をつけていて、彼の作品を村でほとんど二束三文で手に入れ、死後、セザンヌの回顧展を開き、セザンヌは大評判になる。マティスピカソも最大限の賛辞を贈っている。

原題からも分かるように、ゾラから見たセザンヌという構成だが、一人だけ描くのでも大変なところを二人合わせて、彼らの交錯する人生を描こうとしたこの作品は美術愛好家でなくても必見。

1860年30年ほどを描いていて、この時代に登場する無数の絵描きや画商、絵具商が登場するから知っている名前が多く興味が尽きない。例えばゴッホの描いているタンギー爺さんは、彼らの面倒をよく見た絵具商。セザンヌの良さは早くから見抜いていて、まだ高価なチューブ絵具を都合してやったり、何かと便宜を計ってやっている場面も。

まあ、しかし何度も官展での落選を繰り返し、それでも諦めなかったところはさすがであるし、それを励まし続けたゾラがまた素晴らしい。セザンヌは自分は印象派ではないと何度も作中でも繰り返していたように、それ以上という心意気があった様子。また、ドミニク・アングルなどの新古典派をコテンパンに罵るところも出てくるが、周囲よりずーっと先を見すえていたと思われる。

この邦題はすっきりしていてよい。「セザンヌと私」では、ちょっとわかりにくいかも。なお、ゾラの作品「ジェルミナル」、作品中の訳語は「芽月」としていたが、もちろんその意味はあるが、現在、日本では「ジェルミナル」と言わないと、却って分かりにくい。

プロヴァンスの数々のシーンは、それこそ印象画の絵のように美しい。これを見るだけでも本作を見る価値があると思う。

 

#66 画像はIMDb,及びALLCINEMA on lineから