ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「ローマ法王になる日まで」

170613 原題:CHIAMATEMI FRANCESCO - IL PAPA DELLA GENTE(私をフランチェスコと呼んでくれ - 人々の法王)伊 2015 113分 2016度イタリア映画祭出品作  脚本・監督:ダニエレ・ルケッティ

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現法王のアルゼンチン時代にスポットを当てた作品。法王を扱った映画はこれまでも少なくないが、一人の法王の半生記というスタイルを取っている作品は多くはない。それほど、激動の人生を生きて来た人物ということか。

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⬆︎彼女とアルゼンチン・タンゴを踊る、イタリア系移民のホルヘ・ベルゴッリオ(ロドリーゴ・デ・ラ・セルナ)。

アルゼンチンの首都、ブエノスアイレスで、神学を目指す学生時代から描いている。やがてイエズス会に入り、布教活動を始める。日本行きの話も出てくる。(結局実現しなかったが)

順調に”出世”し、35歳で管区長に抜擢されるが、1976年、悪名高き軍政が始まると、一転、苦境に立たされる。輝かしい彼のキャリアの中で、最も影の部分で、この作品でも、その辺のことをあまり詳らかにしていない。教会仲間が次々に軍に捕まって、殺されたり行方不明になる中、巧みに軍と渡り合い、民衆からの人気も勝ち得て、一気に法王への道を駆け上ってしまう。(ちょっと出来過ぎ)

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民衆に寄り添うことに徹し切ったこと、一方で、戒律のうるさいカトリック界において独特の柔軟さ、融通無碍なところが、いい方へいい方へと彼を向かわせたようだ。

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システィーナ礼拝堂でのコンクラーベで、圧倒的な支持を得て、なぜそこまで一方的な勝利を得のか、途中が省略されていたようで、ちょっとなあ・・・という気がしたけど。

この作品、イタリア映画だが、スタッフはイタリア人、キャストはほとんどがアルゼンチン人、言語はタイトル、エンドロールも含めて、すべてスペイン語

#34 画像はIMDb, 及びALLCINEMA on lineから

公開リハーサル@ミューザ川崎

170609

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明後日の名曲全集の公開リハを聞いてきた。12時からちょうど2時間、取り上げたのは伊福部 昭の日本狂詩曲とシャブリエのスペイン狂詩曲。ほぼ出来上がっている様子で、ほとんどマエストロが注文つけることはなかった。

やはり一流のオケとなると、なるほどこんな風に仕上がるんだと、結構、それなりに感銘を受けた。ハイ、次、どこどことマエストロがちょこっと言うだけで、即座に弾き始めるって、あの辺は勘と言うか、呼吸かな。

他に、注意されたことを楽譜にメモる場合、後方は聞こえない場合、第1プルトから伝達ゲームよろしく、後ろへ後ろへとアッという間に伝わっていく場面も興味深く拝見。

それにしても、このマエストロはサービス精神旺盛で、聴衆にも色々語りかけて、笑わせるし、オケのメンバーにも休憩中、しきりに声をかけていたりと、人柄を感じる。

 

「皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ」

170608 原題:LO CHIAMAVANO JEEG ROBOT 伊 119分 監督:ガブリエーレ・マイネッティ

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珍しい作品を見た。去年のイタリア映画祭出品作品らしい。イタリアのテレビで放映された日本のアニメ「鋼鉄ジーグ」が人気沸騰で、実写版が生まれたというからちょっとした驚きだ。

f:id:grappatei:20170609094828j:plain荒廃するローマ郊外に住む、しがないチンピラ稼業のエンツォ(クラウディオ・サンタマリーア)が、ある日、敵のヤクザに追われ、逃げ込んだテベレ河畔に繋がれが工事船で全身に放射能を浴びてしまう。気がつくと途方もない力を持つ特殊ボディに変身している。

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なんと暖房のラジエーターを折りたたんでしまうという馬鹿力!早速この特殊能力を生かして大暴れ。最後は人のため、人類のために秘めた能力を発揮できて、初めて安らぎを得るエンツォだった。

他愛もないストーリーだが、イタリア映画界が大真面目で日本のアニメの実写版を作ること自体が、日本人には若干面映ゆい。昔、1964年だったか、黒澤 明の「用心棒」がメキシコを舞台にした「荒野の用心棒」としてリメイクされた時のことを思い出す。

それにしてもこの邦題はひどい。原題を直訳しているのだが、せめて「人呼んで鋼鉄ジーグ」とか、「鋼鉄ジーグと呼ばれた男」ぐらいには出来なかったのか。

 

#33 画像はALLCINEMA on lineとIMDbから。

日声協主催独演会「テノール 城 宏憲」@日暮里サニーホールコンサートサロン

170607 人気急上昇中のリリコ・スピント・テノーレゆえ、売りだし後、直ちに満席になったらしい。そんなこともあろうと、当方、売り出し直後にチケット入手していた。会場のコンサートサロンは60人ぐらいしか入らない小ホール。彼ほどの人気者の場合は、サニーホール(500席)でもいっぱいになったと思われる。

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最後の2曲を除けば、どれも結構ずっしりした演目ばかり。冒頭から全力で飛ばす、飛ばす、こんなにフランスもので飛ばしちゃって、大丈夫かなと一瞬不安がよぎりほど。結果的にはセーフだったが、32歳の若さだし、思い切ってチャレンジングな構成にしたのだろう。

眉目秀麗で、気品ある発声だから、女性ファンの多いこと!トークも堅苦しいところがなく、ごく自然体で、ますます好感を持たれたようだ。

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伴奏の村上氏との息もぴったりで、どの演目も見事な演唱だったが、欲を言えば、前半のフランスものは抑え気味に、チレアからヴェルディをfull throttleにして、プッチーニは再び、やや軽めにして終えてもよかったのではないかな。(エラそうなこと言って、失礼だが)アンコールにはレハールの「微笑みの国」から「君こそ我が心のすべて」をまず歌い、さらにカンツォーネ・ナポレターナから「うす情け」で幕。

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会場で配布された曲目紹介は、城くんの自作。1ペイジ目だけ抜粋したが、ご覧のように見事な解説文である。この人、文才にも恵まれているのかも知れない。

#24

「光をくれた人」

170606 原題:The Light Between Oceans 米・豪・NZ合作 133分 脚本・監督:デレク・シアンフランス

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ほぼ事前情報なしに見に行ったが、期待以上。灯台守夫婦の感動話かなぐらいの興味しかなかったのだが、なかなかどうして、単なる感動ものでなく、結構、緊迫感もあり、優れた作品。そう言えば、昔「喜びも悲しみも幾歳月」('57 松竹、木下恵介監督、佐田啓二高峰秀子主演)という邦画があった。

舞台はオーストラリア、時代は1918年、すなわち、第一次大戦終戦後の話。従軍して、激戦地からなんとか生還したもののPTSDに悩まされる主人公トム(マイケル・ファスベンダー)、臨時の灯台守として採用される。一番近い町から160kmも離れた絶海の孤島で、一人暮らしは、さすがに厳しい。

その後、正式採用となり手続きで一旦町に戻っている時に、町の名士の娘イサベル(アリシア・ヴィカンダー)と知り合う。いつしか惹かれ合う仲に。島にもどってから二人の間に文通が続き、PTSDから徐々に立ち直るきっかけとなる。

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その後、結婚した二人には二度の流産という悲劇が待ち構えている。意気消沈しているところに、ボートが島に漂着。中にはすでに絶命している父親らしき人物、傍に元気な赤ん坊が。早速当局に知らせようとするトムを必死で押しとどめるイザベル。結局、そのまま二人だけの秘密として、自分の娘として育て始める二人。

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 それから数年後、思わぬ展開が・・・ここから、死んだ男の妻で、赤ん坊の母親、ハナ(レイチェル・ワイズ)が登場し、ぐいぐい物語に引きずり込まれる。

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ラストシーンは1950年だから、約30年後、海の見える高台の一軒家で静かに一人暮らしをするトムのもとを赤ん坊を抱いた女性が訪れる。沖に沈む夕陽が辺りを赤く染める。

マイケル・ファスベンダーアイルランド人の母親を持つドイツ人、アリシア・ヴィカンダーはスェーデン人だが、小柄で浅黒く、スェーデン人には見えない。レイチェル・ワイズはロンドン生まれの英国人。「ナイロビの蜂」が印象に残るが、46歳の割には劣化が目立ち、残念。

撮影のほとんどはNZで行われたらしい。第1次大戦後の話と分かって、欧州のどこかが舞台と早合点していたが、途中でウォルツィング・マティルダを皆で歌う場面が出てきて、オーストラリアと知った次第。

#32 画像はALLCINEMA on lineとIMDbから