ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「コウモリ」@川崎市民館

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旧知の歌手が何人か出演するので、合唱練習の後、登戸へ駆けつけた。初めて行くホールなので、途中、道を間違えたりしながら、それでも開場時間ジャストに到着。前から4列目に陣取った。オケ・スペース確保で前列4列ほど潰しているから、実際には8列目ぐらいの感じ。

グランドオペラは、真ん中より少し後ろぐらいが聴きやすいのだが、オペレッタは、聴覚より視覚要素優先で、ここらがちょうど良い。結構、緞帳の手前で演技したりするし、普通の声でのやり取りはこの辺でないと聞こえづらいのだ。

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こうした市民や区民オペラというのは、内容の割に入場料が安いのが嬉しい。今回の公演も@¥4,000で、アマチュアとは言え、本格的な管弦楽団と合唱団が長く激しい練習を積んでの参加だから、見応え、聴きごたえ、たっぷりであった。

ロザリンデの宍戸美法、初めて聞かせていただいた。ふくよかな体型から紡がれる美声がよく響いた。ロザリンデは適役だろう。

アデーレの二見麻衣子、ほぼ一年ぶりに見せてもらった。いやぁ、確実に進化の跡が窺われて、嬉しかった。今日は出番が多く、また歌唱の方も、いくつものアリアを聞かせてもらい、十分納得、満足でした。

アイゼンシュタインはベテランの羽山晃生、最近、テノールからバリトンに転向したと聞いていたが、この役はテノール、またはバリトンとなっていて、まさにうってつけの配役。演出が要求したのだろうが、徹底的にコミカルさを前面に出していて、なるほどこうした三枚目も、実はこの人、得意なのだと合点が行った次第。

ファルケの小林 勉も初めて聞いた一人。前出の羽山に師事したと解説に出ている。師を凌いだかどうかは分からねど、なかなか善戦していた。歌唱も演技もどちらもまったく遜色なし。

フランクの吉原裕作、なんとも滑稽で、終始笑ってしまった。よく通るバリトンで、滑舌もいいし、もちろん歌唱も素晴らしいが、何より自然な演技が散々笑わせる。ひょっとして、これは地かも知れない。周囲のおばちゃん連中も彼が登場するだけで笑っていた。

最後にオルロフスキーの藤長静佳、ひと月前にもかつしかシンフォニーヒルズでのマダム・バタフライのケイト役で聞かせてもらったばかりだが、オルロフスキーはまさにはまり役だろう。上背があり、お顔も宝塚の男役も青くなるほどの器量ゆえ、これ以上のオルロフスキーは望めないほど。堂々たる演唱、しびれました。

オケは、一見して20代と思しき面々で、音大でなく、いろんな一般大学のオケからの寄せ集めと一部社会人が含まれたオケで、ハードな練習の賜だろう、よく鳴っていたと思う。

合唱団はさすがに年配者が多く混じっていたが、かなり細かい演技も含まれていて、よくぞここまでと同年輩の一人として感心しきりであった。

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手前のハープで視界がわずかに欠けたのが残念。

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ご覧のように若々しいオケメンバーたち。

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あでやかなアデーレの二見麻衣子

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衣装もヘアスタイルもビシッと決まっているオルロフスキーの藤長静佳

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アイゼンシュタインの羽山晃生とのツーショット。ご覧のように、中ヒールでも、長身と言われる羽山を超える上背だもの、そりゃケイトよりオルロフスキーでしょう。

#55 文中敬称略

 

加藤康之テノール帰国記念リサイタル@伝承ホール(渋谷)

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こういう優れたテノールがいること、まったく知らず、企画したフランコ酒井から聞いて初めて知ることとなった。ルッカをベースに活躍されていたわけだから、日本で存在が知られてないのも宜なるかな。

興味津々で第一声を聴いて、思わず仰け反りそうに。細身の身体で、よくあそこまでと思うような大音声の高音を会場いっぱいに響かせ、こちらの耳がどうにかなりそうな感じだった。仕草もいかにもイタリア仕込みで、どこか日本人とは異なる印象。こうして、また一人、素晴らしいテノールが聞けることとなって、嬉しい限り。

今日はこの方に加えて、今や日本のテノール界では頂点に立つ一人と認識している笛田博昭、それに天は二物組のお一人、鈴木玲奈が出演という、少数精鋭豪華版!後ろの席に空席が目立ったが、もったいない!こんな素敵なコンサートは滅多にないし、今日来場した客は儲けものと思ったはずだ。

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さすがフランコ酒井、素晴らしい選曲ではないか。更に、これに加えて、アンコールで以下の歌が熱唱された。

1. COR'INGRATO (薄情け)              笛田博昭

2. MUSICA PROIBITA (Gastaldon作曲)             加藤康之

3. CANDIDEから「きらびやかに着飾って)          鈴木玲奈

4. O SOLE MIO                        笛田博昭、加藤康之

5.アンドレア・シェニエから「ある日青空を眺めて」          笛田博昭

5番目はプログラムにあるように加藤康之が歌う予定だったのだが、いかなる事情か急遽「誰も寝てはならぬ」に変更。加藤もこれだけは、いささか?がつく演奏だった。俄仕立て感、あり。途中の音の出し方が切れ切れになっていた箇所が何回かあり、アレレ?という感じだった。他が全てBravissimo!!!だっただけに、ちょっと残念。

今後、日本をベースに活動されるようだから、大いに楽しみにしたい。

笛田は、さすがに安定した歌いっぷりで、メリハリもあり、評判通りの歌唱に終始。場内騒然!

初めて聞く(!)鈴木玲奈が、また凄かった。こんなにうまいソプラノがいるのに、今まで聴いたことがなかったとは、われながら呆れる。一緒に言った旧知のファン仲間からも呆れられた。月並み表現だが、絹糸を引くような、細くきれいな高音が随所に聞かれたし、絶妙なアジリタもたっぷり堪能。とりわけキャンディードの「きらびやかに着飾って」は場内を唸らせた。歌唱だけでなく、振りも可愛らしく、思わず笑いが出てしまうような仕草も大好評!今日はいろんな意味で大収穫、フランコ酒井には感謝したい。

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最後列からスマホで撮影すると、この程度の写真しか撮れない。(言い訳)

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加藤康之。凄い曲が続いたので、少々お疲れ気味かも。

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鈴木玲奈。遠目でも美しさは認識できたが、近くで拝見してもこの通りの美しさ!

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左は企画・構成・進行を今日も見事に果たしたフランコ酒井。右はオフィスカランク代表の金澤(大森)麻里。これからもどんどんいい企画をお願いしたい。お疲れさんでした!

それにしても伴奏の藤原藍子さん、急な変更やらリクエストやらに見事に対応されていたのはさすがである。

#54 (文中敬称略)

 

青山 貴独演コンサート@日暮里サニーホールコンサートサロン

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日声協主催の独演コンサートシリーズ、今年度の第5回は、バリトン青山 貴。歌唱力もさることながら、この方の自然で、人柄を感じさせる温もりのある笑顔に惹きつけられるファンが多い(特に高齢女性)。

ご本人からも最後に説明があったが、このシリーズ初登場で、何を歌うか悩まれたそうだが、普段歌いたいと思いつつなかなか機会がなかった演目を並べたという。特に季節柄、海をテーマにしたという。少しでも聴衆を涼しい気持ちになってもらうつもりだったのに、この日、一気に涼しくなり、目論見が外れたと笑っていた。

普段歌えないからと、ここにぶつけてくる出演者は、やはり結構多い。そういうファンが来ることを想定した上での決断だろう。それはそれでいいことと思うのだが、ある程度、登場する歌手を聞き込んでないと、時に歌う側と聞く側に微妙なズレが生じるような気がする。

この点、今回ほとんど初めて聞く演目ばかりだったが、それなりに聞き応えを感じ、楽しめたのは、自分なりに事前に彼の歌唱情報が入っていたお陰だと思っている。こちらが”初めて聞く”のは当然で、ご本人曰く、「最後の演目以外は初めて歌うものばかりです」と明かされていた。道理で譜面台を立ててたわけだ。(最後の2曲だけは、多少の振りも入るし、譜面台は撤去されたが)

アンコールは「鉾を収めて」(中山晋平)。こうしたクラシックのコンサートで手拍子を初めて聞いた。

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いかにも実直な青山らしい演目解説文だ。いずれも彼の持ち味である中・高音を響かせる演目が並ぶ。とりわけ最後の2曲はトリハダもの。手狭なコンサートサロンではもったいないと感じる歌いっぷりで、場内、大歓声。ピアノの高田絢子も彼の伴奏をする機会が多いだけに、しっかり分をわきまえた、見事な黒子ぶり。

 

#53 (本文中、敬称略)

「パターソン」

170831 原題:PATERSON 米 118分 脚・監:ジム・ジャームッシュ(64歳、日本公開作品、多数だが、これまで一本も見ていない)

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パターソン(実際の発音はパタスンで、アクセントは最初に来る)は、ニュージャージー州の、何の変哲もないありふれた地方都市の名前であると同時に、主人公の姓でもある。

その町で、パターソン(アダム・ドライバー)は美人妻、ローラ(演じるゴルシフテ・ファラハニは、イラン映画界の名花であり、フランスやハリウッド映画でも活躍中)、メスのブルドッグ、ネリーとひっそりと、穏やかに暮らしている。

映画は月曜の朝に始まり、1週間後の月曜の朝で終わる。ほぼ均等に割り当てられた時間で、淡々と物語は進んでいく。ちなみにラストシーンは冒頭のシーンとまったく同じ。

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主人公はこの街のバス・ドライバー(俳優がドライバーという姓なのも何かの因縁)で、毎朝、定時(6時半頃)に一人で起きて、側の椅子の上にきちんと畳まれた服を着て、同じ朝食(コーヒーとシリアル)を摂り、妻が用意しているブリキ製のランチボックス⬆︎を下げて、近くのデポー(バスの車庫)まで歩いて出勤。

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そして、出庫係が来るまで運転席で、詩を書くのが唯一と言って良い楽しみのようだ。仕事が終われば、再び歩いて自宅へ。郵便受けから郵便物を取り出し、妻の元へ。

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夕食後は、ブルドッグのネリーを散歩に連れ出し、途中のバーでジョッキ一杯のビールを飲み、バーテンや来店客と世間話をして戻る。

毎日、少しだけ普段と違うことがどこかに差し込まれている。妻はカップケーキを作ってバザーで少しだけ儲けようとせっせと準備しながら、ギターをゲットしてカントリーを歌う夢がある。モノクロームと水玉模様の連続パターンが好きで、自分の衣装やカーテン、カーペット、ベッドスプレッドなど、彼女の趣味で溢れかえっている。

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ある日、バスが故障、代替バスを呼ぶにも、日頃からケータイは持たない主義だから、さて困った。客の一人から借りて一件落着。(スマホ、持たないのに、鮮やかに使いこなすのは、どう見てもヘン)

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夜、ネリーを連れて散歩していると、通りすがりの若い連中から、因縁をつけられそうになり、そのブルドッグ、ジャックされねーようにな、と捨て台詞を残して去っていく。結局、何も起こらないのだが、そうした思わせぶりな場面、少なからず。

日曜バザーで、カップケーキが飛ぶように触れて、ローラは286ドルも稼ぎ、ご褒美にと、レストランで外食と映画という提案。外出中に、一人残されたネリーは腹いせに詩を書き溜めたパターソンの大事なノートをズタズタに。ローラの進言で、翌日、コピーを取ることにしていたというのに!

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⬆︎随分古い映画をやっている。結局、右側の「獣人島」(1932)を見るのだが、左側の「凸凹フランケンシュタインの巻」(1948)に出ているルー・コステロは、この街出身の唯一と言っていい有名人。)

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傷心のパターソン、町外れの渓流のそばのベンチで、ぼんやりしていると、いきなり実直そうな男が声をかける。座ってもいいかと。怪訝な面持ちで一応「どうぞ!」

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この日本人(永瀬正敏)、詩が大好きで、この街出身の詩人、ウィリアム・カーロス・ウィリアムズに敬意を表するために来たことを問わず語りに明かす。表情には出さないものの、大いに共鳴するパターソン。しばしの会話の後、互いに名前も名乗らず、別れる。永瀬の最後のセリフ、"Excuse me,  Ah ha!"

ハリウッド作品には珍しいしっとりした佳作だ。”もの凄い”感の溢れかえる中に、こういう静謐な、淡々とした日常風景だけを掬い取ったような作品は貴重だ。まるでヨーロッパ映画のような印象を受けた。BGMも素晴らしいが、極端に少ない台詞だけに、ひとつひとつの会話が鮮やかに耳に残る。

#57 画像はIMDb、およびALLCINEMA on lineから。

DOLCE MUSICA Vol.7@アルテリーベ

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いつもはこの店のスタッフとしてチロル衣装を身にまとい、キビキビ動き回っている姿しか知らない店の看板娘、佐藤 祥を初めて聞きに行った。

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この人、強靭な声帯をお持ちのようで、低く力強い音色が持ち味。メゾソプラノと言っても、かなりアルト寄りの音域だろう。そのような選曲をされていた。後半、「ドン・カルロ」からの有名な二重唱がプログラムに載っていて、テノールがいないから、彼女がドン・カルロのパートを歌うんだろうとは思っていたが、これがほぼ違和感なく聞けた。ということは、やはりテノールに近い音色・音域の持ち主なんだろう。なかなか日本人には珍しいタイプかも知れない。

上のプログラムだが、やはり演奏者の名前は入れてもらいたい。器楽演奏が、4曲組まれていた。それは良いのだが、チコチコ(フルートをフィーチャー)、月の光(もちろんピアノ)、チムチムチェリーなどはともかくとして、普段オケで演奏される「セヴィリアの理髪師」序曲など、ピアノ、フルート、チェロで聞かされてもなぁ〜、という感慨あり。

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前半、純白のドレスで登場の佐藤 祥。タッパもあり、見事な舞台姿!

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共演の追分 基は気のいいおっちゃん風で、一言喋るたびに凄い歓声が上がる。どうやら合唱指導でもしていて、その生徒さん(おばちゃんばかり)の一群がいたようだ。

高音までカバーできるハイバリトンで、オーソドックスな歌唱法。ただ、ミュージカルの「魅惑の宵」などは、もう少しそれっぽく、つまり情感を込めて歌ってほしい。(「南太平洋」は学生時代に何度も見ていて、ロッサノ・ブラッツィ⦅歌唱はジョルジョ・トッツィ⦆の声が耳に残っている)

前半最後の「セヴィリア・・・」からのシェーナ、「それは私なのね!」は素晴らしい掛け合いで、大いに楽しんだ。

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後半、女性陣は衣替えで、佐藤も落ち着いたネイビー系のドレス。これもよく似合っていた。

ところで、佐藤が歌ったソロ、「ジュリエッタとロメオ」から「もし君が眠っているのなら」を、「みなさま、よくご存知のロメオとジュリエットから1曲・・・」という風に紹介していた(と思う)が、この曲はイタリア人のニコラ・ヴァッカイ(1790-1848)が作曲したもので、ロミジュリのオペラ版は、一般的にはグノーのもの、あるいはタイトルは違うがベッリーニのものが知られているわけで、ヴァッカイのものは、タイトルもジュリエッタが先に来ていて、滅多に上演されることもないから、その辺りも触れて欲しかった。

写真で分かるように、ほぼ満席。客の反応をじっくり観察していると、出演者5人の中では、彼女のファンが最も多かったようだった。

#52 文中敬称略