ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「シングルマン」


101027 丸の内ルーブル 101分 米 A SINGLE MAN [監]トム・フォード [出]コリン・ファース(「真珠の耳飾りの少女」、「ブリジッド・ジョーンズの日記」)、ジュリアン・ムーア(「エデンより彼方へ」、「めぐりあう時間たち」)、マシュー・グード(「マッチ・ポイント」)

朝、目覚めて、今日中に自ら命を絶つことを決めてしまうと、これまで見えていた光景がまったく違うものに見える。また知っている人間たちに対しても、こだわりや、わだかまりがスッと消えて、まったく違った接し方をしている自分に驚く。

16年間連れ添ったパートナー、ジムの突然の事故死から、立ち直れないジョージ。建築家だったジムが建てた洒落た邸宅から、今日もベンツに乗って英文学を教えに大学へ向う。講義もこれが最後かと思うと、投げやりにならざるを得ない。しかし、逆に学生にとっては、これまでにない迫力と新鮮さを感じるのだった。そんな学生の一人、美少年ケニーがジョージに執拗に言い寄ってくる。

銀行に立ち寄り、貸金庫を解約、帰宅後、中身の株券や現金、その他金目の物を几帳面に並べるジョージ。背広、ワイシャツ、ネクタイも脇に並べ、結び方はウィンザーノットで、と指定するメモまで用意する周到さ。さて、準備は整った、後はどうやって拳銃の引き金を引くかだけだ。いろいろシミュレーションを繰り返すが、どうも納得できない。

すると昔、多少の関係があったチャーリー(ムーア)から電話、晩飯でもどうかのお誘い。断る理由もなく、取りあえず自殺するのは後回しにして、彼女の家へ。まだ未練たっぷりのチャーリーを置いて、一旦帰宅。酒が切れているので、近くのバーへ。するとケニーが偶然を装って・・・。そして意外な顛末が。

カリフォルニアが舞台、時代は1962年秋。その当時の車や、建物、小物等々が登場するのが興味深い。中には明らかなアナクロも発見出来て面白い。過去へのフラッシュバックはあるが、たった1日のストーリーである。

コリン・ファースは特徴のない俳優だが、こういう役どころはピッタリである。ムーアも今年50歳。美形ではないが、魅力たっぷり。際どいシーンもあるが、映像がきれいだし、梅林 茂担当の音楽も映像によく合って、詩的な世界を醸成するのに成功している。監督のトム・フォードはグッチの服飾デザイナーが前身という異色ぶり。

時間調整で選んだ作品だが、得した気分になる1本。

#53(画像はALLCINEMA on lineから)