101206 東京オペラシティー・コンサートホール
レオ・ヌッチは勿論以前から知っている名バリトンだが、生で聞くのは多分初めてだ。いやーまぁその凄さにはたまげた。神がかり的な名演で、今日はほんとに来てよかった。まさかこれほどとは、である。ちょっとぴったりの形容詞が見つからない。そんじょそこらの言葉では申しわけないのだ。
東京では1回しかないコンサートだからだろう。マエストロ(井上道義氏)、オペラ歌手(五十嵐喜芳氏、林康子さん)、他にも音楽評論家(堀内修氏)、伴奏ピアニスト(浅野菜生子さん)、などなど、見知った顔がぞろぞろ。客もほとんどが熱烈なオペラ・ファン、それもイタオペ・ファンだろう。1曲終わるごとのブラーヴォが尋常のものではない。決して狭くない会場が、ほんとに割れんばかりなのでから。
この声を聞いて、現在68歳って、一体誰が信じるだろうか。若かりし日の写真が使われているが、只今現在の姿は、もうイタリアに行けばその辺にいる普通のおっさんの風貌。頭頂部は禿げあがり、とりたてて特徴のない容姿だが、笑顔がたまらない魅力をたたえている。渾身の演奏が終わると、その笑顔に変わり、一礼する姿に、聴衆は高まる感情をどうしていいのか分からない。シャイな日本人聴衆は滅多にスタンディング・オベーションを見せないものだが、今夜は違った。後ろの客もほとんど前列に押し寄せ、まるで演歌の舞台のような賑わいぶりがおかしかった。
上の演目の中で、殊更凄かったのが、「ドン・カルロ」から”終わりの日は来た”、「仮面舞踏会」から”お前こそ魂を汚すもの”、「リゴレット」から”悪魔め、鬼め!”、更にアンコールで歌った「アンドレア・シェニエ」から”祖国の敵”。
アンコールではI VESPRI SICILIANI(シチリア島の夕べの祈り)から"喜びのうちに"も含めて全部で4曲も。ちょっとねだり過ぎじゃないかと思った。予定曲はどれも重く激しいもので、途中いくらピアノ演奏を加えても、この年では、疲労困憊もその極に達していた筈。鳴り止まぬ喝采とブラーヴォを浴び続けて、とうとう最後にはテノールの出し物、「オー・ソレミオ」まで。尤も、これは聴衆に歌わせるために仕組んだもの。聴衆の合唱がまた凄かった。やはりみんなそれなりに喉に自信のある人ばかりだった様子。
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