140722 原題:ENEMY カナダ/スペイン合作 90分 原作:ジョゼ・サラマーゴ(ポルトガル人)の「複製された男」監督:ドゥニ・ヴィルヌーブ(「灼熱の魂」、「プリズナーズ」)出演:ジェイク・ギレンホール(二役)、メラニー・ロラン
冒頭から隠喩に満ちた作品で、しめくくりもアッと驚く仕掛けがある。それと、何しろジエイク・ギレンホールが二役を演じているから、見ているうちにどっちがどっちだか判然としなくなるから危ない。ギレンホールが、同監督の前作「プリズナーズ」から連続して起用されたのも、演技力が高く評価されたからだろう。
トロント郊外の高層アパートで割に優雅な生活をしている大学の歴史講師アダム、同僚に勧められたある映画が気になり、DVDを借りて見ているうちに、画面に自分と瓜二つの人物が。手がかりを探し、この三流俳優と対面する。
実は、これ、自分自身の別の姿であることが、だんだん分かって来る。彼の意識下にある人物で、浮気をしていることを客観視して、何とか罪の意識から逃れようとしているようだ。冒頭に出て来るタランチュラと最後の大蜘蛛が何の隠喩か。それは見た人に任されているのだろう。冒頭に出て来るChaos is an undeciphered order(カオスとは解明されない秩序である)に関わるエンディングか。
⬆パリ生まれのメラニー・ロラン(「オーケストラ!」、「黄色い星の子どもたち」、「イングロリアス・バスターズ」)、やっと31になったばかりだが、既に20作ほと出演し、すっかり国際スターになっている。
トロントの街の描写がまるでPM2.5の真っただ中のような、一面黄色くもやのかかったようなのも、また、衣装や室内の調度備品類もが、全体に無彩色で、まるでフェルナン・クノップフ(ベルギーの画家)の「見捨てられた町」を彷彿とさせるのも、本作の主人公のやり場のない感情をうまく醸成するのに一役買っているような気がする。それと頻繁に流れるバックの不協和音も。
主人公の母親役で、イザベラ・ロッセリーニがちょっとだけ顔を出す。随分年を取った!母親の美貌には遠く及ばないながら、あの雰囲気だけは何となく持っているような気がした。
原題のENEMYだが、これは二役の相手、つまりもう一人の自分自身のことを指すのだろう。しかし、本作に限っては、邦題の方が上手い!
#61 画像はALLCINEMA on lineから