220505 SENSO (官能)イタリア 1954年
さすがにリアルタイムでは見ていません。多分、テレビで放映された時ですから、製作年より相当後のことという記憶がありますが、今回、配信で改めて鑑賞し、冒頭シーン以外、ほとんど覚えていないことがわかりました。まぎれもなくルキーノ・ヴィスコンティの名画ですが、封切り時での日本での評判は芳しくなかったとか。助監督としてフランチェスコ・ロージとフランコ・ゼッフィレッリが参加したというから豪華な布陣です。
主演の二人には、原案ではマーロン・ブランドとイングリッド・バーグマンを予定していたようですが、ブランドは主に製作陣からの反対があり、実現しなかったようです。バーグマンが出なかった理由は不明です。いずれにしても、ファーリー・グレンジャーとアリダ・ヴァリはそのお陰で歴史的な作品に出演するという幸運に恵まれたことになります。尤も、グレンジャーは撮影終盤、ヴィスコンティと大げんかの末、アメリカに帰ってしまい、最後のシーンは別人を立てて凌いだとか。最後の数分ですが、確かに顔はほとんど写されていません。もう少し前の段階だったら、と思うと、お互いにタイミングをはかってケンカしたんですね。
時は1866年の春から夏ということですから、イタリアは第三次独立戦争ってんで、隣国のオーストリアとドンパチやってたんですね。ところが、この舞台であるヴェネツィアでは、町中にオーストリア兵がいるんですが、戦時という雰囲気はまるでなく、なにかのんびりと過ぎているように見えます。
冒頭、フェニーチェ劇場でのシーンから始まります。なんと歌劇「イル・トロバトーレ」の第3幕の終演部、例のマンリーコ役テノールのDI QUELLA PIRAで、ラスト、ハイCを長々と出し切って拍手喝采を浴びるところです。そこで、主役の二人が初めて会うのです。方やオーストリア軍のマーラー中尉(ヴィスコンティは作曲家マーラーが好きで、「ヴェニスに死す」でも使いましたが、ここでも!)、こなたリヴィア・セルピエーリと名乗る伯爵夫人です。
ここから前半は二人の恋路をたどります。男は典型的な女たらしで、恋愛経験の薄い伯爵夫人はまんまとひっかかって、大金まで巻き上げられた挙句、捨てられるんですね。聡明そうに見えても、彼の手練手管には手もなく落ちちゃうんですから、見ていて歯痒いこと!
やがて、後半は壮絶な戦闘シーンが繰り広げられ、この描き方もすごかったとしか言いようがないほど。さすがヴィスコンティです。
彼から騙されたと知った伯爵夫人、なにしろ彼が脱走目的で医者に偽診断書を書かせるための大金を用意したのですが、出どころは必死で戦っているイタリア義勇兵から預かった、いわばなけなしの戦費ですからねぇ〜。そのままでは済ませられません。思い切った手を打ちます。でも、心が晴れることはもう絶対にあり得ないから、結末は映画に描かれなくても見えています。
ファーリー・グレンジャーは1940年代から50年代にかけてハリウッドで活躍した2枚目アメリカ人。イタリア語ができたかどうか分かりませんが、不自然さは感じなかったですね。ヴィスコンティはあっち系ですから、やたら2枚目大好き人間で、ヘルムート・バーガーやアラン・ドロン、ビョルン・アンドレセン(ヴェニスに死す)、等々、起用しています。そういう彼のお眼鏡にかなっただけあって、確かに美男で、この時代はその絶頂期だったかも。
アリダ・ヴァッリさん、本作より5年前の「第三の男」(アンナ・シュミット役)の方で有名かも知れませんが、愚亭はフランス映画「かくも長き不在」(本作の8年後、テレーズ役)の方が好きです。美人には違いないですが、角度によってはかなり実年より老けて見える、いわば老け顔とでも言うんですかね。だから、この伯爵夫人役というのは、どうもイマイチって感じで鑑賞しました。因みに、撮影時、ヴァッリは33歳、グレンジャーは29歳!