ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「アラビアの女王 愛と宿命の日々」

201122 QUEEN OF THE DESERT 米/モロッコ合作 2017 128分 脚本・監督:ヴェルナー・ヘルツォーク

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実話に基づいた作品。このような女性がいたことすら知らなかった。資料によれば、彼女はイギリスの考古学者・登山家・紀行作家・情報員となっている。

女性の地位がまだ低い時代にあって、高い教育を身につけたものの、周囲から却って煙たがられ鬱々とした生活。耐え切れず、ペルシャ公使だった伯父を頼ってテヘランへ。そこの3等公使館員と親しくなるも、相手が急死(自殺?)。

以後も男運には恵まれず、生涯独身で中東で研究に没頭する。当然、誰よりもアラブ事情に詳しくなり、政治力も発揮するが、彼女をスパイとして利用とするイギリス政府の意向に従うことなく、むしろアラブ側に同情的に振る舞う。「アラビアのロレンス」のT.E.ロレンスとも親交があり、共通点も。

日露戦争直前の日本にも2度来訪しているというから、当時としてはよほど世界中を動き回っていたことが窺える。もし男性だったら、あるいは中東の歴史に影響を及ぼした可能性もなきにしもあらずだ。

この時代、オスマントルコの衰退により、英仏が中東への覇権争いの真っ只中、フセイン・マクマホン条約やサイクス・ピコ協定など、悪名高き英国の3枚舌外交にはロレンス同様、一貫して批判的だったことだろう。

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砂漠のシーンが美しい!

こんな凄い女性をニコール・キッドマンが鮮やかに演じていた。ただ、残っている写真によれば、不美人というほどではないしても、ごく普通の女性であり、キッドマンほどの美女が演じるのははなはだリアリティに欠けるが、まあいいでしょう、映画だから。

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撮影中のヴェルナー・ヘルツォーク監督。

これまで数々の輝かしい作品を残してきたヘルツォークの作品としては、やや凡庸であるのは否めない。同じ砂漠を舞台にしたデイヴィッド・リーンの「アラビアのロレンス」には遠く及ばない。