ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラ」

201122 THE PRICE OF DESIRE(欲望の値段)ベルギー/アイルランド合作 108分 2014 脚本・監督:メアリー・マクガキアン

f:id:grappatei:20201123102725p:plain

日本では2017年に公開されたらしいが、まったく知らなかった。

この地味な内容ゆえ、公開されたという記憶もないし、おそらく不入りではやばやと公開を切り上げたのではと疑う。そもそも主役となるアイリーン・グレイ(1878-1976)という人物が日本ではほとんど知られていないし(と自分には思えるが・・・)、この邦題でなければ、自分も見ることがなかったという作品。

あくまでも主人公がアイリーン・グレイだから、邦題とはうらはらにル・コルビュジエ(1887-1965)は添え物的にしか登場しないのには、がっかりする。でも、アイリーンという女性がいかに優れたアーティストかを知れたのは収穫。

f:id:grappatei:20201123131654p:plain

自作の家具に囲まれるアイリーン(Orla Brady)

彼女は建築家というより家具デザイナーとしての名声が高く、たまたま恋仲になった相手ジャン・バドウィッチが建築家・評論家であったことから、進められるままに建築・設計にも関心を示し、当時独特の理論(建築五原則など)で先鋭的な作風で知られていたル・コルビュジエを彼に紹介され、その謦咳に接し、触発されてコードダジュールのル・キャップ・マルタンに完成したのが、バドウィッチと一緒に住むための住宅、その名もE-1027。⬇︎

f:id:grappatei:20201123124410p:plain

2人の頭文字の一つと、それらを数字に置き換えて並べたもの。これがル・コルビュジエの痛く気にいるところとなり(そりゃ彼の理論が盛り込まれているからね)、ここに何度も足を運ぶし、この前の海で泳いでいて溺死するというおまけ付き。(自殺説も)

映画の冒頭は、アイリーンの作品の一つ(椅子)が競売に付され空前の1950万ユーロで落札される場面。ラストは、片目を失明した後も創作意欲が衰えず、その作業中に心臓発作で倒れるシーン。

ベルギーとアイルランドの合作というのも珍しいがアイルランドはアイリーンの故郷であることから。それにしても、映画の中の会話がひんぱんに英語と仏語が入れ替わるというのは、一体どういう意図か。

余談だが、愚亭が現役時代、海外建築視察団の添乗員としてあちこち見て回った中に、ル・コルビュジエロンシャン礼拝堂が含まれていて、団員が最も楽しみにしていた旅程中のハイライトだった。ところが、道中手間取り、どんどん日が暮れてきて撮影できなくなったらどうしようとドライバーを必死に急かすが、田舎道だからどうにもならず、不安と必死で戦いながら、ひたすら前方を凝視するのみ。くれなずむ丘にやっと見えてきたのが、これ!

f:id:grappatei:20201123130625p:plain

 幸い、撮影も滞りなく済んで、ホッとした一幕。その日の夕食で飲んだビールの美味しかったこと!