ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「モーリタニアン 黒塗りの記録」

211109 THE MAURITANIAN 2021 英米 2時間9分 監督:ケビン・マクドナルド

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主人公となるハメドゥー・ウルム・スラヒ自身の書いた原作に基づいた作品ゆえ、ほぼ実話ですが、映画に描かれている以上に過酷な目に遭わされたとは本人の弁です。そこまではさすがに映像化が憚られたと想像されます。

アメリカとはまだ国交正常化されていないキューバの一角にあるグアンタナモ1903年からアメリカの租借地です。そこにある米軍基地に悪名高い収容所があることは、ずいぶん以前から日本でも紹介されてきました。ここに収容されているのは、主にイラクアフガニスタンで拘束されたテロに加担したと思しき人物です。例の9.11事件以降、アメリカの対テロ政策は一気に苛烈になりました。

モーリタニアというのは、日本にはあまり馴染みがありません。ハテ、どこだったっけ?というのは一般的な反応でしょう。アフリカの西に突き出たコブのようなところにある、結構大きな国です。

そこで家族や親しい仲間たちと祝宴をあげているところに警察、というより公安ですかね、これが現れて、物語の主人公モハメドゥー・スラヒは拘束されます。本人はなにもやましいところもないし、すぐ帰るからご馳走取っといてと母親に言い残しますが・・・

場面はアメリカに変わります。無実を訴えながら一度も裁判も開かれないままのスラヒを救出すべく、政府を糾弾する人権派弁護側のナンシー(ジョディー・フォスター)と、一方、なんとしても死刑に持ち込もうとする軍の弁護士カウチ中佐(ベネディクト・カンバーバッチ)が、それぞれの立場から、収監されているスラヒに面会を繰り返し、真相に迫ろうとします。

その間、スラヒが拷問される場面がなんども挿入されます。これらは拷問した側がこっそり撮影したと思われる動画などがさんざん流出しているので、特に目新しいものはありません。ただ、罪もない人間を垂れ込みなど確証もない中で遠く離れた収容所に護送して延々と拘束するって、いったいどんな国なのかと思わざるを得ません。

やっと裁判で無罪と認められるまで6年、これで釈放となるとおもいきや、オバマ政権はさらに7年も拘束するのです。他国に人権の押し売りまがいのことをやる前に、こういう作品を見るにつけ、彼らが振り回す正義とは一体なんなのか、9.11で深手を負ったわけですが、その代償があまりにも大きいと言わざるを得ません。最終的には釈放するものの、国家としてきちんと釈明も謝罪もしているようには見えません。

主役を演じたタハール・ラヒムは中東系フランス人で、過去、何作かフランス映画で見ています。結構演技派の男優です。

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羊たちの沈黙」も歳を取りましたね。初めて見たのは14歳の「タクシー・ドライバー」

現在59歳のフォスター、実際より老けさせたメイクのようです。相変わらずとんがった鼻は健在。深いブルーの瞳と、なんとなく酷薄に見えかねない薄い唇も印象的です。

ちょっとミスキャスト気味のカンバーバッチ、アメリカ訛りに苦労したように見えました。今回は製作にも名を連ねていますが、ちょっともったいない役だったようです。

それにしても、こういう作品が生まれてくるのも、さすがアメリカだな、と妙に感心もしました。