220403
花散らしの氷雨の中、日比谷まででかけて正解でした。これまでこのシリーズは何度となく参加していますが、今回ほど興味深く堪能できたことは初めてです。というのも、やはり名手河原忠之さんの手腕に追うところが大と言えます。
それに今回初めてオペラの細部を作り込むコレペティの風景を間近に見られて興奮気味でした。なるほど、なるほどと、いちいち腑に落ちた次第。これは、やはり河原さんのようなベテランでないとできない仕事であると痛感。
というのは、やはり経験が大きくモノを言う世界だからです。オペラについての諸々、歴史はもちろん古今の名歌手のことや、曲想やら演出のことまで実に広範な分野がそこには含まれるからで、そうでないと、歌い手側もなかなか付いていけないし、生煮えでいきなりマエストロと対峙することになりかねません。
今日は、最初の組、高橋絵理さん、山本康寛さんで「コジ・ファン・トゥッテ」から第2幕第12場 No.29(もうすぐ腕に抱かれて)、フィオルディリージとフェランドの絡みをまず観せてもらえました。合間合間に、河原さんが歌い手の気持ちを確認するところなど、とても印象的でした。
しかし、こういうのを一般人に見られるという経験て滅多にあるもんじゃないですから、また詳細を事前に聞いていなかったらしいので、お二人ともたいそう緊張の面持ちで、特に山本さんは「んで、フェランドは、ここはどんな気持ち?」とか聞かれて、慎重に言葉を選びすぎるところに彼の真面目さを感じました。
後半、「セビリア」に移る前に、休憩時間を利用して前半中に書かれた聴衆からの質問に河原さんが回答するのですが、まず質問があまりにプロすぎて、私のような素人には分かりにくいところも随所に。河原さんもびっくりしていました。「これ書いた人、誰ですか?」とか。
とりわけ、前半に話のあった調性には色があるという話。モーツァルトやドビッシーなども、そのような傾向があったらしいとか、スクリヤビンとかリムスキーコルサコフなど、調性による色の違いがぴったり一致していたとか、信じられないような話でしたが、アンケートの中にも、自分もそれは感じるという趣旨のことが書かれていて、河原さんも得たりとばかり、大変うれしそうでした。私は調性の色なんぞ感じたこと、ありませんけど。
また河原さんの指摘の中には、オペラを楽しむためには、歌っている歌手はもとより、むしろ歌い終わった、あるいは次に出番を控えている歌手の表情を見逃さないことが観賞の極意とも。字幕なんか見ている場合じゃないと付け加えられたのがおかしかったです。確かにオペラ歌手は歌手であり役者ですから、演技、とりわけ表情をじっくりたっぷり見る必要、ありますよね。大いに納得です。
後半は、メゾの石田 滉(きらら)さん、黒田祐貴さん(バリトン)も加わり、「セビリア」から第2幕第9場(ああ、なんという思いがけない打撃)でのコレペティ指導でした。石田さんは一度だけ2年前にお聞きしたことがありますが、芸大首席卒業だけの技を披露されました。それにしても、キララという名前には驚きます。
一方手足の長いイケメン黒田祐貴さんは、なんとあの黒田 博さんのお子息とか。見かけはまったく似ていませんが、演技力には驚きます。何か天性のものを秘めているように見えました。かなり軽めのお声で、明らかにハイ・バリトンという声種でしょうか。まあ、みなさん、場慣れしているとしか見えませんが、最後に、二つの場面を通しで聞かせていただきました。
今日はほんとに収穫のすこぶる大きなレクチャーでした。学生時代から通算すると自分なりにオペラはもう何百回も生で見ていることになるのですが、今回の経験はまさに目から鱗でした。