ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「ダゲール街の人々」@Amazon Prime

221125 DAGUERREOTYPES 1975  仏 1h18m 脚本・監督:アニェス・ヴァルダ

写真に少しでも興味のある方はダゲレオタイプと言う言葉はご存知でしょうが、その語源となるルイ・ダゲール(1787-1851)が開発した銀版写真と呼ばれるものを指します。そのダゲールの名前を冠した通りがパリ14区にあり、この監督もこの通りの一角で何年か暮らしたそうで、それでこのドキュメントができたようです。

実は、愚亭もその昔、同じ14区で、この通りに程近いところに住んでいました。買い物でこの通りは日常的に通っており、時代もまさにこれが撮影された1975年ごろでしたから、このタイトルを見て、すぐに見始めた次第です。

この通りに並ぶ店とそこで働く人々をカメラが淡々と追うという展開で、そこにはさしたる気負いも、それほどの主義主張もあるわけでなく、ごくごく当たり前の日常風景が映されています。見方によっては、退屈に感じる向きもあろうかと思います。

でも、あの時代には、人々の素直な情感がずーっと流れていて、ただ見ているだけで実に心地よいのです。なにもかもが便利になってしまった現代から見ると、なるほど、たかだか50年ほど前って、こういう日常、こういう人々のほんのりとした交流があったこと、今更ながら知り得ました。

肉屋、美容店、理髪店、パン屋、雑貨屋、配管工、自動車教習所指導員、etc. などが登場しますが、香水屋が主として描かれています。オーナーの老夫婦、だんなさんが切り盛りしていますが、老いた夫人は無表情で認知症の初期段階のようです。それでも、カメラを嫌がることなく、ありのままの姿を撮らせるので、見ている側が多少辛いです。

当時のフィルムの彩度が暗く沈んでいて、それが時代を見事に写しとっていると感じました。