ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「ノスタルジア」@イタリア映画祭(配信)

230708 NOSTALGIA 2022 カンヌ映画祭コンペティション部門出品作品 1h57m 監督:マリオ・マルトーネ

ダークな作品で後味もかなり悪いですが、佳作。

カイロ発ナポリ行きの飛行機(エジプト航空かな?)に乗る、人相のあまりよくない主人公、フェリーチェ(ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ)は間もなく着陸体制というのに、飲み物の注文をとりに来たスチュアーデスにアラビア語で「紅茶をお願い!」と。

これがゆえあって子供の頃に、生まれ故郷のナポリを離れ、中東・アフリカに渡った彼の現在の姿。あれから40年、故郷に戻ってきます。ナポリ郊外のかなり荒れ果てた街が舞台になります。

カイロでは美しい奥さんと子供もいる幸せな家庭を築いていて、今回の一人旅は、その奥さんに勧められて来たようです。年老いた母親との再会、あまりにひどい環境にいるので、取り敢えずもうちょっとマシなところに引っ越させます。ところが、ほどなくしてこの老母は亡くなってしまいます。それでも、死に目に遭えたのはラッキーでした。時折スマホのビデオ電話で奥さんと連絡を取り合っています。

さて、今回の旅の目的は、老母再会もありますが、メインは幼い頃、さんざん遊んだ悪ガキに会うことでした。この相手、年上のオレステといい、今ではいわば暗黒街の帝王として、住民に恐れられる存在。ナポリの裏の世界を牛耳っています。そんな男に会ってどうするのかと、親しい人物はこぞって大反対。会うなら命の危険をさらして行けとまで忠告されます。

そして・・・・

そこまでして会おうとした理由が定かになりません。いくら個人的に親密な感情を抱き続けていたにしても、今の存在はあまりにも隔たりがあり、相容れる余地はないのですから。40年という長い長い時間の埋め戻しでもしようとしたのでしょうか。家を購入し、家族を呼び寄せ、ここで余生を過ごそうとするにはリスクが大きすぎます。

カメラアングルが素晴らしいです。臨場感が堪りません。ここで描かれるナポリは普通、我々が知っているナポリとは別物です。有名な反社会組織カモッラが本部を置くようなところですから、一歩裏道に入れば、何かが起こりそうな不気味な雰囲気に満ちています。遠くにヴェスビアス火山が見える場面ではすこしホッとしますが・・・。

主人公を演じたファヴィーノの演技はずっしりと来ましたが、ある意味、それ以上だったのがオレステ役のトンマーゾ・ラーニョです。この人、先月見た「乾いたローマ」では、まったく異なるキャラクターを見事に演じてましたが、出番は僅かですが、その存在感には参りました。それと、母親役のアウローラ・クァットロッキ(四つ目とは、実に変わった姓です)さん、調べたら、1943年というから、まだ80!画面では90には見えました。眠っているシーンが多かったけど、素敵な演技でした。