ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「英雄の証明」@Amazon Prime

240207 Ghareman (ペルシャ語قهرمان  チャンピオンのこと)2021 イラン、仏合作 製作(共)・脚本・監督:アスガール・ファハルディ(「彼女が消えた浜辺」2009以降、日本公開された4本、すべて視聴済み。どれも佳作揃い)

市井の人々、誰にでも起きうる何気ない日常の機微に触れるテーマを巧みに掘り下げて描く名手かと。

本作では、主人公ラヒムが借金を返せない罪で服役中の拘置所から、2日間の休暇をもらって(このあたり、イランのシステムだから、ハテ?となることが少なくない)、その間に借主(元義兄 - 別れた元妻の兄)に話をつけ、釈放してもらおうとさまざま画策するものの、どれもうまく行かず、すったもんだの挙句、元の居場所に戻るという展開。

イラン南部の古都、シーラーズが舞台。付近には古代遺跡が点在するような、独特の雰囲気の街。登場する人物は、温和で、物静か、物腰をも柔らかいが、その実、けっこう粘着質で、いやらしい側面を持つ人物が多いようです。主人公もまた家族とも周囲とも和して、平和的な日常を営んでいるように見えるものの、一枚めくると、別の人間性が潜んでいます。

彼の婚約者が金貨17枚入りのバッグを拾ったことで、一気に問題解決が見えかかるが、さっそく両替商に持ち込んで換金しようとすると、レートがあまりにも悪いことから、一転、持ち主に返そうと言うことに。張り紙などをして、やっと落とし主が現れ、バッグ返還。それが美談となり、とそこまではよかったのだが、詰めがあまかったね。

そこにさまざま不運も重なり、元の木阿弥へ。暗い話だが、唯一の救いは姉のところで預かってもらっている一人息子の存在。吃音症に悩んではいるものの父親には絶対的な信頼感を持っていて、父親が煮え切らずヘマばかり繰り返しても、1人父親を信じる姿が健気なのだ。

戦後間もないイタリア映画の傑作、ヴィットリオ・デ・シーカの「自転車泥棒」を思い出した。