ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「サウルの息子」

160203 原題:Saul fiaハンガリー語)107分 ハンガリー映画は珍しい。脚本・監督:メネシュ・ラースロー

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衝撃的な作品だ。過去公開された数多のホロコーストものの中で、様々な意味で、極めて異彩を放つ作品。

まずはドイツ語で特殊部隊を意味するゾンダーコマンドという存在。これは、もっぱら死体処理など、最底辺の嫌な仕事を、ナチスが収容所内のユダヤ人たちに押し付けるために設けた組織。いずれ自分達も同じように殺される運命にありながら、わずか数週間から数ヶ月、他の囚人たちより生きながらえることを選択した、同胞からも最も蔑まれる存在。

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その中の一人、サウルが主人公で、カメラは、徹底して彼の目になりすます。それゆえ、開映して、日本語タイトルの後に本編が始まるとググッと画面が縮小、今や懐かしいスタンダードサイズに。ちょっと離れた席からだと、まるでテレビ画面のような錯覚を覚える。IMAXだ、3Dだと見慣れた目には、ことさら小さく映る。しかもカメラは40mmという深度の浅いもので、背景がぼやけて見える効果を狙っているのは明らか。主人公サウルの顔があえて画面のほとんどを占めるように撮影。さらに80%以上はハンディカメラによる撮影だから、臨場感にはハンパならざるものがある。

死体処理に追われるサウルが、ある日、ガス室で「処理」されたばかりの死体の中に、虫の息の少年を見る。彼には、自分の息子としか見えない。結局、この少年はナチスの担当医により窒息死させられるが、なんとかして、この少年の遺体を自分の手でねんごろに埋葬したいと考える。なぜなら、それこそが、今、自分が出来る唯一の人間らしいことと思えるからだ。

なんとか少年の遺体を手に入れたサウルは、それから、必死で囚人の中に、埋葬に必要なラビを探し求めるのだが、ナチスの厳しい監視下で、できるはずもない。

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次から次へと運び込まれるユダヤ人たちの”処理”で不眠不休のナチス側にも焦りが見え、ガス室だけでなく、屋外に囚人たちを集めて、銃殺、火炎放射器による後処理へとフル稼働。そのどさくさに紛れ、囚人たちによる暴動が小規模ながら発生。サウルはその混乱に乗じてラビらしき男を確保するのだったが・・・。

正視に耐えないシーンの連続だが、小さな画面のほとんどはサウルの顔だし、遠景はボケているから、夥しい全裸の死体の山がある(らしい)ことや、屋外の”屠殺”の阿鼻叫喚の場面もなんとか凌げる。

あとは音響、つまり、重々しいドアの開閉や、台車のきしみ、死体を引きずる音、囚人たちの絶叫、閉められた鉄扉を叩く音などが凄まじいばかりの効果を上げている。それが見るものの想像を嫌がうえにも掻き立ててやまない。音楽は、一応あることになっているが、まったく聞こえなかった。

いやはや、なんとも恐ろしい映画だ。

#8 画像は、IMdb,及びALLCINEMA on lineから。