ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「人類遺産」

180312 HOMO SAPIENS 独・澳・瑞合作。94分 製作・撮影・監督:ニコラス・ゲイハルタ

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冒頭、地中海沿岸のどこかの遺跡なのか、水に覆われたビザンチン風のモザイクの床絵が出てくるから、世界中あちこちの廃墟が登場するかと思ったのだが、日本がメインだとは!

本作、音楽やナレーションは一切ない。聞こえるのはすべて自然の音。雨の滴る音、風が優しく樹々を揺らすかと思えば、凶暴に吹きすさび、砂塵を巻き上げ、雪を舞わせる。鳥のさえずり、羽ばたく音、などなど。

おおむね一つのカットに30秒を要するから94分で180カットぐらいだが、同じ場所で数カット以上なので、全部50カ所ぐらいが登場しているはず。

最初のシーンは、雨の降る自転車置き場。張り紙や案内表示で日本と分かる。どうやら福島第1原発至近の浪江町らしいことが後で判明。その後も人影のない駐車場やスーパーなどをカメラが延々と捉える。

日本のシーンは他にも、例の長崎の軍艦島端島)も登場する。これこそまさしく一時の繁栄の後を如実にとどめる人類の廃墟、遺産の代表例だろう。

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海外の場面では、打ち寄せる波に抗うようにして立つジェットコースターのシルエットが極めて印象的だ。

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打ち捨てられた戦車や、大型軍用車両が赤く錆びついて、冷たい雨に晒されている風景も。敢えて晴れた日は撮影しなかったようだ。確かにどんよりした曇天下の方が廃墟向きだ。

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⬆︎場所は特定できないが、大きな教会や、⬇︎まだ使えそうな設備を残す病院など。

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かなり実験的な作品だが、強いインパクトを残すことには成功している。考えられるる人類滅亡後の世界を暗示しているようで、戦慄を覚える。それを監督は伝えようとしていたのだろう。ホモ・サピエンスが地球上に記した一瞬の足跡だ。

タイトルだが、ホモ・サピエンスより邦題の方が優れているように思える。

#22 画像はALLCINEMA on lineから。