ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

パーシモンのオープンデーで二期会マイスタージンガーを聞く

170909

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合唱仲間から無料コンサートの耳寄り情報を得て、ジリジリ照りつける中、めぐろパーシモンホールまで出かけた。

お目当は、応援している高橋絵理が登場する第二部。二期会マイスタージンガーバリトン松本宰二が主宰するユニットで、結成して多分十年以上のはず。当方も、正確に覚えていないが、ミューザ川崎で聞いたのが初めてのような気がする。当時の顔ぶれは松本宰二以外、全員入れ替わっている筈。

今回、ソプラノの盛田麻央テノール高柳 圭は多分初参加だと思われる。演目や、歌うスタイルは、ずーっと変わらず、とにかく聴衆をいかに楽しませるかの一点に集中していて、どんな客層にも絶対に受けるから、やはりその努力たるや大変なものだろう。

一人ずつ自己紹介でのテノール岡本泰寛の”拍手の伝道師”は、すでになんども目撃しているが、その度に笑わせてくれるから、大した芸なのだ。たかが拍手だが、その叩き方について、いちいちごもっともな講釈。今日も大受けだった。

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(⬆︎斜めにスキャンした上、ピアノの水戸見弥子が一部切れてしまい、申し訳ない!)

演目はどれもほぼ定番で何度も聞いており、どれも素晴らしい味わいだが、今回、とりわけ印象に残ったのは、八声による武満 徹の「恋のかくれんぼ」と、高橋絵理盛田麻央による贅沢な二重唱「私のお父さん」である。武満のは、ほぼ円陣を組んだ形で、互いの声を聞きながらの演唱には痺れまくった。「私の・・・」はもちろんソロで歌われるアリアだが、二人の声質をうまく絡めての見事な編曲で、素晴らしいハーモニーも楽しませてもらった。

#56 (文中敬称略)

「禅と骨」

170908

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こういう人がいたとは知らなかった。上に書かれている通りで、ヘンリー・ミトワ(Henry Mitwer)は粋人であり、変人である。

日本人の母(新橋の芸者だったらしい)とドイツ系アメリカ人の父の間に横浜生まれ、横浜育ち。外見は全く外国人ゆえ、スパイと特高に睨まれ、嫌気がさしたこともあって、戦前、父親に会いに氷川丸で渡米するが、戦争で日本に帰れなくなる。アメリカでは逆に日系米人ということから敵性外国人の扱いで、ピアニストだった夫人共々、マンザナールの収容所に。

戦後、日本へ。そして京都嵐山での生活、いつのまにか天龍寺の禅僧になるが、根っからの趣味人だから、日本文化に憧れ、絵画、陶芸、文筆、茶道といろんなことに手を出す。一つ一つがそれなりのレベルに達していたようで、姿は白人だが、心は日本人という風情。

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千宗室(15代)とも深い親交があった。

最晩年に、米国在住の長男(英語しか喋れない)、長女(アメリカ在住だが、日本語も話す)、次女(日本在住)が久しぶりに一堂に会するが、会話はこれまでの子供達の恨み辛み(特に次女が強烈に抱く)が露わになり、かなり物騒な場面もカメラは遠慮なく撮影する。こんなとこ、見ちゃっていいのかなと戸惑いを覚えるほどだ。

2011年、93歳で没するが、その前後をも、カメラは淡々と克明に写し取っていく。晩年はかなりわがままぶりが顕著となり、事前打ち合わせでも、撮影側としばしば衝突し、険悪な雰囲気も。

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天龍寺の住職と語り合う幸せそうなヘンリー・ミトワ。

父、ヘンリーがいかに家庭を顧みなかったか、もっぱら母がピアノ演奏で家庭を必死に支えたことを次女が語る場面があるが、上の二人はすでにそんな勝手気ままに生きる父親を許している風だが、独り次女だけが最後まで厳しく接する。それでも、最期を寄り添ったのはその次女だった。次女が流す涙が印象的。

ヘンリー曰く、将来に夢なんかない、過去が面白いのだと。長男がアメリカの自宅で「過去は関係ない。大事なのは未来だ」と対照的なコメントが印象深い。それと、いつまで経っても、自分の思いは母にしか向かっていない、女房なんか関係ない!と言い切った後、しまったと言わんばかりの茶目っ気ぶりも、人間臭くて面白い。

死後、遺品整理の場面で、始終過去が面白いと言っていただけあって、膨大な遺品が出てくる。遺族たちには、ヘンリーのそうした過去や古いことへかかずらうことを一切意に介さないようで、片端から整理し、彼が自宅の居間に置いて大事にしていた父母や親戚のお骨を寺に頼んで、全て一つにしてしまう。

天から彼はこの光景をどう見ているだろう。過去へのこだわりの好例の一つがヘンリーが苦心惨憺して作成した長大な家系図。子供や孫たちは、なんでこんなもの作ったんだろうと笑い合う始末。これが現実、あまりに現実!

ヘンリーは「赤い靴」を映画にしたいと、企画書まで作って、一時、金策に走り回ったりしたこともあったようだが、結局、資金不足で、夢叶わず。後日、彼の意向を汲んで短編アニメとなったことが紹介される。

全体としては、ドキュメンタリーのスタイルを取っているものの、合間にドラマを巧妙に差しはさみ、ナレーションでもフォローしていて、丁寧な作品になっている。多分、10年がかりぐらいで作られた作品だろう。127分とやや長尺だが、それはあまり感じさせない佳作だ。エンディングで突然「骨まで愛して」(城卓也、1966)が流れるのには笑った。

#61 画像はALLCINEMA on lineから

「関ヶ原」

170906  149分 脚本・監督:原田眞人 原作:司馬遼太郎

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テレビドラマでは、何度か見た記憶があるが、映画では初めて見る。さすがに今時の作り方だと、戦闘シーンなど、とてつもない迫力で、思わずワクワクする。

監督は司馬ワールドにずーっと強い憧れがあって、いつか自分で撮りたいと思い続けていたらしい。それはいいのだが、冒頭に司馬遼太郎の語り口で簡単な描写が入るが、この部分はカットした方がスッキリすると思う。

やはり撮影、カメラワークが秀逸、また特に音響がすざましき効果をあげていて、これを見るだけでも、本作を見る価値は大あり。それにしても編集が大変だったろうことは容易に想像できる。

有村架純がえらい美味しい役で、しかもエンドロールでも、堂々、岡田准一の次に出てくる。この初芽という役柄、確か原作にはなかったように思うが。なくてもまったく本筋に影響を与えないもの。

岡田の演技は、大河で黒田官兵衛もやってるし、まったく違和感なく見られた。ただ、もう少し冷徹さを出してもよかったかと思う。何だかえらく人の良さそうな人物になってしまっている。参謀の島左近を演じた平 岳大もいつのまにか立派に成長していた。

石田三成が自害せず、生き延びようとするところが常人とは異なるところで、彼の生き方は、敵役として描かれることが多い中で、司馬遼太郎はかなり石田に好意的に筆を進めていたことが分かる。

149分はちょっと長かった印象。もう少しコンパクトにして貰いたかった。

#60 画像はALLCINEMA on lineから

「新感染 ファイナル・エクスプレス」

170905 原題はハングルで表記不能。参考までに英語タイトルはTRAIN TO BUSAN(釜山行き列車)114分 韓国 監督・ヨン・サンホ

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この邦題は秀逸!新幹線の中での新感染という、語呂合わせみたいな具合だ。舞台になっているのは、ソウル発釜山行き韓国版新幹線KTX車内。発車直前に乗り込んで来た女⬇︎が未曾有の大惨事の元凶。

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この列車には、冷徹なファンドマネジャー、ソグと愛娘のスアンが乗車している。最近、家庭を顧みないソグのせいで、夫婦仲はすっかり冷え込み、別居状態。カミさんの方は釜山在住。これから娘をカミさんの元に連れていくため、新幹線を利用。果たして、無事娘を母親の元に届けられるのか・・・?

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⬆︎別の車両に乗っている愛する者たちを奪還しようと、途中にある汚染車両を強行突破しようとする3人。

見所は、密室で発生した感染にどう対応し、極限状態で見せる人間性・非人間性にスポットを当てているところかな。ハリウッド製の、例えば「ワールド・ウォーZ」に登場するようなゾンビの大群 vs.未感染者の壮絶極まるノンストップ・バトル。一度噛まれれば、即感染だから、両者の差はどんどん広がり、感染していない方は互いに疑心暗鬼も募るし、生き残るのに必死となる。

途中、列車脱線、転覆事故などのシーンも盛り込まれ、若干嘘っぽいシーンもあるにはあるが、全体として見れば、結構よくできた作品で、韓国はもとより諸外国でも評判は上々の様子。

#59 画像はIMDbより。

 

 

「ワンダーウーマン」

170905 原題もWONDER WOMAN 米 141分 監督:パティー・ジェンキンス(「モンスター」2003)

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ギリシャ神話の世界の話だが、冒頭シーンは現在のパリ。空撮で、徐々にルーブル博物館にズームしていき、ピラミッドの真上から内部へという導入部。

映画は、古代(というか神話)、1914年、そして現代と三つの異なる時代で活躍するダイアナという女性が主人公。

最強の女戦士軍団アマゾネスのプリンスであるダイアナが、第1次大戦下の激戦地、ベルギーのど真ん中にタイムスリップして、連合軍側で戦うという奇天烈な話だが、結構見せ場の多い作品に仕上がっている。

女戦士軍団の島に、空から複葉機がただならぬ爆音を響かせ、海に墜落。ダイアナはすかさずダイブしてパイロットを救う。初めて見る男に興味しんしんのダイアナ。間もなく、彼(実は米軍のスパイで、ドイツ軍の動きを探っていた)を追ってきた独軍の軍艦が現れ、女護が島の浜で壮絶な戦いとなる。

原作のアメコミは1941年製というから驚く。もちろんアメコミのことはまったく知らない。興味を持ったのは、監督があの「モンスター」で、主演のシャーリーズ・セロンにアカデミー主演女優賞を取らせた女流監督の作品という事実。彼女は、もともと2005年に本作を撮る予定だったらしいが、諸般の事情により遅れに遅れたとか。

この女戦士のアメコミをどうしても実写版で撮りたいという執念を持ち続けたというから凄い!「モンスター」もそうだが、女性を主人公に据えた物語ゆえ、自分で撮ることに固執したようだ。

女流監督でも、戦闘場面の迫力ある作り込み方は、「ハートロッカー」(2008)、「ゼロ・ダークサーティー」(2013)を撮ったキャサリン・ビグロー、「最愛の大地」(2013)、「アンブロークン 不屈の男」(2016)を撮ったアンジェリーナ・ジョリーに決して負けていない。

タイトルロールを演じた、イスラエル出身のガル・ガドット、特別美人というタイプではないが、均整の取れた肢体でアクロバティックな演技を見せる。雄々しく、激しく猛々しい演技は痛快でカッコいい。

本作に備えて、よほど身体的鍛錬を積んだようで、危険なシーンが多いからスタントを多用したのはもちろんだが、自身、ダイナミックな身のこなしで多くの見せ場を作っている。

他にクリス・パインロビン・ライトデビッド・シューリスユエン・ブレムナーなど案外豪華な布陣。

 #58 画像はALLCINEMA on lineから