ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「グリーンブック」

190305 GREEN BOOK 米 130分 監督・脚本(共)・製作(共):ピーター・ファレリー アカデミー作品賞受賞(監督賞を逃して作品賞を取った事例は過去4回しかない)またマハーシャラ・アリは本作でアカデミー助演男優賞獲得。ヴィゴ・モーテンセンは主演男優賞を逃しはしたが、見事な演技で、個人的にはボヘミアン・ラプソディーで受賞したラミ・マレック以上と思う。脚本、製作に名を連ねるニック・ヴァレロンガはトニー・リップの息子。ずーっと企画を温めていたらしい。f:id:grappatei:20190306102229j:plain

粗野で無教養なイタリア系アメリカ人、トニー(ヴィゴ・モーテンセン)が、まだ人種差別の激しかった当時(1962年の設定)、逆に教養ある黒人ピアニスト、ドクター・シャーリー(マハーシャラ・アリ)の演奏旅行の運転手を務めるというロードムーヴィー。実話がベース。

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演奏シーン。実際にピアノを弾いているとしか見えないのだが、

あの時代にこうした優れた黒人ピアニストが存在していたことすら知らないし、まして公民法成立前のアメリカで、白人二人(ヴァイオリニスト、チェリスト)とトリオを組んでの演奏旅行とは言え、わざわざ差別が一段と激しいディープ・サウス(深南部)へ演奏旅行するという行動自体、信じがたい。ある種、肝試しと本人は後に語るが。

一方のトニーだが、腕っ節の強さを買われて、夜の世界で用心棒として生計を立てていたのだが、一斉手入れであえなく失業。外見的には粗暴だが、家庭では優しい父親であり妻を愛する夫、イタリア人の大家族主義を体現するかのような生活ぶり。

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失業中のトニーがDr.シャーリーの面接を受ける。

およそ考えられないような組み合わせで意気揚々、ニューヨークを高級車で出発した二人(まったく同じタイプのもう一台にはヴィアオリニストとチェリスト)だが、果たせるかな、至る所で厳しい差別を受ける。あちこちで騒動を繰り返しながら8週間にわたって旅は続く。

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妻に手紙を書くトニーに愛情表現たっぷりの書き方指導をするDr.シャーリー

 

その間の二人のやりとりが全体の軸になっている。生き方も考え方も正反対の二人が時間の経過と共に、”何か”を次第に共有していくところが感動を呼ぶ。最後のシーンでジーンとなるが、その辺は脚色だろう。

全体に笑えるシーンが多かったのだが、現在も依然として残る人種差別や人種隔離で悩める国で、この種の作品はどう受け取られたのか、甚だ興味をそそられる。日本人なら、人ごととしてただ笑って鑑賞しているのだが、本国ではそうとは行かないだろう。

ヴィゴ・モーテンセン、随分作品を見ているが、今回演じたような役は一度もやっていない筈。どちらと言えば、暗く深刻なやくどころが多いし、またそうした雰囲気をどっぷり身につけているから。この役のために10kg増量したと聞く。いつもはとんがった顔がまるまるとして別人の如し。ナポリ方言を喋るシーンもうまくこなしている。

ちなみに、ヴィゴはニューヨークのマンハッタン生まれ。モーテンセンの姓で分かるが、父親はデンマーク人、母親はアメリカ人。両親はノールウェイで出会ったというし、その後、ヴェヌズエラやアルゼンチン暮らしも長い。当然、北欧語、スペイン語も堪能という、バリバリの国際人。

#12 画像はIMDbから。

マーラー2番「復活」本番@杉並公会堂大ホール

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昨年9月末から半年近く練習にかけた公演がやっと本番を迎えた。生憎の雨模様の中、会場へ。7時半開演でも合唱団の集合時間は1時半!出番まで6時間もあるのだ。(実際に歌い始めるのは8時45分!)その間、声出しやオケ合わせ、入りハケの練習はあるものの、アイドルタイムが中途半端に長いのが辛いところだ。しかも合唱団専用の控え室などないのがこのホール。各自それぞれどこかにスペースを探して三々五々過ごすことになる。

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募集チラシ

核になる団員たちの間で、「復活」歌いたいね、という声が上がり、そして立ち上げたという合唱団だから手作り感、満載。低予算ゆえ、チラシも一味違う。最終段階では加わってくるかと思ったトラも入らず、本番も参加費を支払ったメンバーだけで乗り切ったのは立派!

杉並公会堂は一度第九で舞台に乗ったことがあるが、舞台はオケでいっぱいになるから、合唱団は後ろの、いわゆるP席に陣取る。聴衆からすれば、奥の一段高い位置に合唱団ということで、きちんと声が届くのか、かなりの不安感。合唱団の指導者からは上にある反響板に向けて声を飛ばせと言われるが、そこまで器用にできる人がどれだけいるか。

ま、でも後で聞いた人たちからは、こちらが感じているほどのこともなく、普通に合唱も聞こえたとのことで、一安心。

今回は入場料無料ということで、知り合いにも随分声をかけたがのだが、それほどの反応もなく、しかも雨天ゆえ、ガラガラだろうと案じていたところ、8割以上が埋まっていて、ちょっと遅れた人たちは席を探すのに苦労したと後で知った。

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手前はアルトのはやかわ紀子。

お茶目な合唱指導者兼独唱者、ソプラノの浪川佳代が本番前のゲネで着席するや否や、スマホで自身の姿はもちろんのこと、すばやく周囲をすべて画像に収めると言う、アッと言わせる行動に出て、団員を笑わせた。その画像の一部を拝借した。

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合唱指導の宇野哲哉が客席で最終チェック中。

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男声パート。向かって左側にソプラノ

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終演。

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カーテンコール

左端は金山マエストロ。新国劇辰巳柳太郎風で、一見いかつい顔だが、冗談好きでひょうきんな方。

一旦、地下2階のグラン・サロンに戻り、一応解団式。次の公演についての発表があった。来年1月25日、中野ぜろホールでのブルックナー作曲「テ・デウム」。リキ・フィル公演にジョインするとか。5月末から練習開始だそうだ。今年は我が地元合唱団の演奏会が年末に控えていることもあり、参加は難しそうだ。

文中敬称略

HOFFMANN 2029@角筈区民ホール

190228 チラシの上の方にANCORA第6回公演とあるが、三浦安による、構成・台本・演出の第6弾。奇抜な解釈と演出で、最近ファン層が広がっていると聞く。ただ、彼の公演は、開演前や、休憩後に少し長めの解説が入るものの、原語上演で字幕一切なしだから、余程事前に”勉強”して行かないと、筋書きとしてはなにがなんだかさっぱりということになりかねないので要注意だ。ものによってはほんの一部だけ、日本語の会話が入ったり、出演者に説明させる場面もあるにはあるけど・・・。

この人、国立音大声楽家出身で、この世界にはテノールでデビューしたようだ。アメリカのメリーランド大学院にも学んだという経歴。安浩を音読みしてアンコー → ANCORAという塩梅。

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ごらんのように2月、3月2回ずつの4公演で、役柄が多いから出演者の数も半端ではない。合唱というかアンサンブルまで含めれば延で80人以上、実質36人!

三浦安が設定したのは今から10年後の世界ということで、AIが多数登場する。マキナというのがそのロボットの通称。最後はみなマキナにされてしまうおぞましき世界という展開。

もともと荒唐無稽で分かりにくい内容だから、近未来に置き換えたところでそれほどの違和感がないというのが率直な感想である。

解説によると、E.T.A ホフマン(1776-1822)は、作家、作曲家、音楽評論家、画家、法律家と、実に多才な人物。最後のイニシャルのAはアマデウスで、敬愛するモーツァルトからとったとされている。小説には自動人形や自己幻視といった不気味なモチーフを扱ったものもあり、オランピア人形もそこらから出ているのだろう。

一方、作曲家のジャック・オッフェンバック(1819-1880)は、名前で分かるようにドイツ人だが、フランスに帰化しているので、オッフェンバッハでなくオッフェンバックと発音される。多数のオペラ・ブッフ、オペラ・コミックを作ったが、オペラとしては「ラインの妖精」(1864)と「ホフマン物語」のみ。本作は1880年に着手したものの、途中で亡くなったため、様々なヴァージョンが存在することになる。今回の舞台ではフリッツ・エーザー版をベースにしている。

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字が小さくて見えないが、今回制作に出演者3人が関わっているのが珍しい。

ホフマンを演じた青栁素晴、のっけからフルスロットルで、上々の出来。それにしても、これだけの長丁場、ほとんど出ずっぱりで、しかもフランス語ときているから、よくぞ覚えたものと、それだけでも感嘆あるのみ。

一人で4役をこなした大塚博章も素晴らしかった。存在感抜群。低音はもちろん、この舞台では、とてつもなく高音を出していて、驚愕!

またニクラウス・ミューズの成田伊美、伸び盛りで安定感のあるメゾ。ソプラノの領域まで踏み込んでの高音も聞き応えタップリ!Brava!

オランピアを歌ったのは青栁・江口夫妻が育成している東京メトロポリタン財団のスターファーム1期生、和田奈美。人形役だから、歌もさることながら、人形としてのカクカクした動きにも注目が集まる役だけに、新人には結構ハードルが高いと思われる。相当稽古を積んだのだろう、見事なオランピアだった。まだ歌唱には粗さが残るものの、将来性を感じさせる演唱だった。

ホフマン物語での有名なアリアと言えば、このオランピアが歌う「生垣には小鳥たち」だが、4幕冒頭で歌われる「ホフマンの舟歌」が圧倒的に有名。この幕だけ舞台がヴェネツィアという設定ゆえ舟歌を入れたのだろう。これを前出の成田伊美ジュリエッタ役のソプラノ、池端 歩が歌った。二人は声質も息もとてもよく合っていて、聞き惚れていた。

アントニアを歌った吉田恭子だが、20年ほど前にアプリコ大ホールが出来た直後の大田区民オペラで「ノルマ」を林 康子ダブルキャストで演じていた筈と、終演後ご本人に確認したら、びっくりされていた。20年もの間、声をそのまま維持するとは!

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キャストだけで端から端までぎっしり。スタッフははみ出している。

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FBからお借りした写真。自然な表情がいい。青栁(左)と成田


終演後、舞台に並ぶ出演者たち。人数が多いので、乗り切れないほどの事態に。

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主演、ホフマン役はテノール、青栁素晴

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オランピアを歌った和田奈美

終演後、ごった返すロビーで、撮影させてもらった。

#12 文中敬称略

METライブビューイング「アドリアーナ・ルクブルール」

190226 久しぶりにこのシリーズを見に出かけた。11時半から3時近くまでの上映時間なので、いつもながら、おむすびやお茶を持ち込んで、幕間に食べることに。

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こういう進行表が入口で渡される。

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いきなり名アリア、「私は創造主の卑しい僕です」

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上はMETライブビューイングの公式サイトからの抜粋。アンナ・ネトレプコは、このピヨートル・ベチャワポーランド出身)と相性がいいのか、この組み合わせでの公演、結構な回数にのぼる。以前はメキシコ出身のロランド・ヴィリャソンと組んでいたのだが、まあベチャワの方がネトレプコの相手役には相応しいと思える。

ネトレプコは結婚・出産を経て、ずっしりと重量感を増したが、声質もそれに連れて、随分変化している。いきなりのアリア、SONO L'UMILE ANCELLAの出だしを聞いて、「うぁ!」という感じである。すっごく太い声なのだ。もちろん高音も難なくこなしているが、以前とは別人の如し。

なんでもこの役は歌唱だけでなく演技力も確かなカリスマ性のあるソプラノがやることにはなっているらしい。それほどの高音域もなく、むしろ低い音域の方が多いくらいで、またさほどテクニックを要するアリアもなく、著名な舞台女優という役柄上、演技が重要視され、レジェンド級の大歌手で、今はあまり声がでなくなったような歌手がやる役とされていたとウィキにもあるので、まあ、ネトレプコにはその説は当て嵌まらないのは明白。

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アドリアーナとその恋人、マウリーツィオ。

ピヨートル・ベチャワも随分上手くなっていて、安定感もしっかり増しているし、今や大テノールの一人であるのは間違いない。

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ジョージア(旧グルジア)出身のアニータ・ラチヴェリシュヴィリ、驚愕の歌声!

それより、一番の驚きはブイヨン公妃役のアニータ・ラチヴェリシュヴィリで、この圧倒的な歌唱にはほんとに魂消た。チェチリア・バルトリどころの騒ぎではない。なんというすっごいメゾが出現したのか。幕間でのインタビューでも、「この役は若く経験の浅い歌手には無理ね」と自信満々にのたまっていたのが印象的。

このオペラは一応ヴェリズモ・オペラの範疇らしいが、マスカーニの「カヴァッレリーア・ルスティカーナ」や、レオンカヴァッロの「パリアッチ」などとは明らかに一線を画する内容である。チレア自身、その境目にあることを意識していたようで、結局、この作品以降オペラの作曲はやめてしまったとされるのはいかにも残念である。

このMETライブシリーズは過去なんども鑑賞しているが、やはりいつ見ても素晴らしい内容で、@¥3,500は決して高くはない。一時、パリのオペラ座がこれを真似て映像作品を公開したが、不評ですぐに打ち切りになったのはうなずける。コンセプトがしっかりしていなかったからだ。

その点、METは鑑賞者を飽きさせない工夫が随所に見られる。まず映像自体もだが、どうやって収録しているか不思議なほど音響が素晴らしいのだ。多分、会場で生で聴く以上と言えなくもない。まあ生に勝るものはないことは重々承知だが、それでもそういう感想を抱いてしまう。

幕間でのインタビューがまた楽しい。今回はイタリア系アメリカ人のテノールマシュー・ポレンザーニが担当した。ネトレプコのみ、開演前に楽屋で収録。やはり幕間で感情が途切れるのがなにより辛いというのがその理由。

他の歌手は全員が幕間インタビューに応じていた。もちろん英語でのインタビューになるから、METに出演するような歌手は英語でやりとりができて当然ということだろう。唯一、ミショネ役のアンブロージョ・マエストリのみイタリア語で応じたので、もちろんイタリア語も堪能なポレンザーニが二言三言で別の歌手に振ってしまったのがおかしかった。

歌手以外のインタビュー、例えば演出家やマエストロにも話を聴くが聞き手は統括マネジャーのピーター・ゲルプである。アドリアーナを演じた中で傑出したソプラノを聞かれて、レナータ・テバルディを筆頭に、モンセラ・カヴァリエレナータ・スコットミレッラ・フレーニなどが挙げられていた。テバルディはこの役をどうしてもここで歌いたいため、当時の支配人を脅かしていたという話を紹介。テバルディならいかにもやりそうではないか。

ニューヨークの聴衆だが、やはりよく聴いていると、性別・人数に関係なく一様にブラヴォーと叫んでいるように聞こえた。また、カーテンコールでは、1階席はほとんど、2階席以上も前列の方は皆スタンディングで喝采を送っていた。

また、この公演で特徴的だったことは、劇中劇としての場面が2度ほどあるが、この装置がすばらしく、とりわけ3幕で、アドリアーナやブイヨン公妃も観衆の一人として座る、バレエのシーンは圧巻。バレエを見ている歌手たちがいて、それを見ているMETの観衆、さらにそれを見る我々というわけで4層にも及ぶ構造が興味深かった。

それにしても、これこそがいわば世界最高峰のオペラの舞台というこをいやでも思い知らされる。歌手も一流なら舞台も一流、装置からコスチュームに至るまで。もちろんウィーン、パリ、ロンドン、ローマ他、主要歌劇場で繰り広げられる公演とて、METに負けないほどの内容かも知れないが、紛れもなく国際水準のオペラ公演とは、かくあるべしのお手本のようなもので、こういうのは折々鑑賞して違いを実感した。

その上で、身近で、安く見られるお手軽オペラも楽しむ、オペラの楽しみ方にはいろいろあると承知してればいいということだろう。

#11 画像はMETライブビューイングの公式ホームページより。

「椿姫」@秋葉原ハンドレッドスクエア倶楽部(7F)

190223  3/10の本番に向けて練習が続くヴェルレクの指揮者で、オケだけでなく、合唱の指導もしてくれてる安藤 敬が主宰するLe Vociによる公演。

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演奏会形式と思っていたら、ちょっとした小道具も用意、演技も入る準本格オペラ。

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変わった名前のホールだが、要は100㎡のスペースがいつくかあって、主として会議場に使うことが多いようだが、ホールとしても使えるビルということらしい。秋葉原の駅から歩10分。

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いつものことだが、ヴィオレッタだけがこういう衣装での挨拶になるのが気の毒。

この人数ゆえ、かなりの部分をカットして上演したが、それでも休憩を入れて、2時間15分の長丁場。3回の休憩時間には、ワインを含む飲み物や菓子類が振る舞われ、3回ともワインをご馳走になってしまった。

タイトルロールの富永美樹は初めて聞かせてもらったが、幼少時からピアノは習っていても、歌はかなり遅くなってから始めたらしい。それにしては、見事な歌唱力で、特に1幕の最大の聞かせどころ、「花から花へ」のラストの最高音から低音まで上下動が激しく長いパッセージを驚くほど正確に音を刻んでいて、驚嘆の一言。最後のEsは当然出すと思っていたが、らくらくという印象。

アルフレード松岡幸太も、スピント系のやや太めの声で、しっかり歌った。多少癖のあるヴィヴラートは好みの領域か。この人もHあたりの発声には無理がなく、美しくだせるから、アルフレードには向いていると思う。

ジェルモンの追分 基、なんどかアルテ・リーベで聴いているし優れた技量のバリトンであることは承知している。雰囲気的にはレオ・ヌッチかな。(笑)2幕1場後半の聞かせどころ「プロバンスの海と陸」は、バリトンとしてこのオペラでの唯一の名アリアとも言える。それだけに、ことさらワクワクしながらこの場面を待つことになる。Bravo!がかかった熱唱ではあったが、敢えて厳しいことを言えば、イタリア語の発音にやや正確さを欠くということか。やはり一流の歌手は、発音にも、もう少し注意を払って欲しいと願わずにはいられない。もったいない。

それにしても、マエストロが幕の始まる前に短い解説をするのだが、これが実に説得力のあるもので、我が意を得たりとばかり思わずニンマリしてしまった。それは、皆さんが今聞いているのは「椿姫」ではありませんと切り出した原作アレクサンドル・デュマ・フィスの小説「椿姫」と、ヴェルディが作ったオペラ, LA TRAVIATAの対比話。

たまたま日本では、伝統的に「椿姫」として公演することが圧倒的に多いが、これはそろそろLA TRAVIATAに改めた方がいい。ついでながら、この「道を踏み外した女」の意味は、マエストロの解釈によると、高級娼婦としてアルフレードのようなウブな青年に真剣に惚れてしまうことこそ、娼婦道(?)にはずれているというもので、これには思わず唸ってしまった。

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このシリーズ(?)、第2回は同じ場所で6月8日18時開演で「ドン・カルロ」という発表がマエストロからあった。今から楽しみである。

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終演後の集合写真(フェイスブックからお借りしました)

#11 文中敬称略