190228 チラシの上の方にANCORA第6回公演とあるが、三浦安浩による、構成・台本・演出の第6弾。奇抜な解釈と演出で、最近ファン層が広がっていると聞く。ただ、彼の公演は、開演前や、休憩後に少し長めの解説が入るものの、原語上演で字幕一切なしだから、余程事前に”勉強”して行かないと、筋書きとしてはなにがなんだかさっぱりということになりかねないので要注意だ。ものによってはほんの一部だけ、日本語の会話が入ったり、出演者に説明させる場面もあるにはあるけど・・・。
この人、国立音大声楽家出身で、この世界にはテノールでデビューしたようだ。アメリカのメリーランド大学院にも学んだという経歴。安浩を音読みしてアンコー → ANCORAという塩梅。
ごらんのように2月、3月2回ずつの4公演で、役柄が多いから出演者の数も半端ではない。合唱というかアンサンブルまで含めれば延で80人以上、実質36人!
三浦安浩が設定したのは今から10年後の世界ということで、AIが多数登場する。マキナというのがそのロボットの通称。最後はみなマキナにされてしまうおぞましき世界という展開。
もともと荒唐無稽で分かりにくい内容だから、近未来に置き換えたところでそれほどの違和感がないというのが率直な感想である。
解説によると、E.T.A ホフマン(1776-1822)は、作家、作曲家、音楽評論家、画家、法律家と、実に多才な人物。最後のイニシャルのAはアマデウスで、敬愛するモーツァルトからとったとされている。小説には自動人形や自己幻視といった不気味なモチーフを扱ったものもあり、オランピア人形もそこらから出ているのだろう。
一方、作曲家のジャック・オッフェンバック(1819-1880)は、名前で分かるようにドイツ人だが、フランスに帰化しているので、オッフェンバッハでなくオッフェンバックと発音される。多数のオペラ・ブッフ、オペラ・コミックを作ったが、オペラとしては「ラインの妖精」(1864)と「ホフマン物語」のみ。本作は1880年に着手したものの、途中で亡くなったため、様々なヴァージョンが存在することになる。今回の舞台ではフリッツ・エーザー版をベースにしている。
ホフマンを演じた青栁素晴、のっけからフルスロットルで、上々の出来。それにしても、これだけの長丁場、ほとんど出ずっぱりで、しかもフランス語ときているから、よくぞ覚えたものと、それだけでも感嘆あるのみ。
一人で4役をこなした大塚博章も素晴らしかった。存在感抜群。低音はもちろん、この舞台では、とてつもなく高音を出していて、驚愕!
またニクラウス・ミューズの成田伊美、伸び盛りで安定感のあるメゾ。ソプラノの領域まで踏み込んでの高音も聞き応えタップリ!Brava!
オランピアを歌ったのは青栁・江口夫妻が育成している東京メトロポリタン財団のスターファーム1期生、和田奈美。人形役だから、歌もさることながら、人形としてのカクカクした動きにも注目が集まる役だけに、新人には結構ハードルが高いと思われる。相当稽古を積んだのだろう、見事なオランピアだった。まだ歌唱には粗さが残るものの、将来性を感じさせる演唱だった。
ホフマン物語での有名なアリアと言えば、このオランピアが歌う「生垣には小鳥たち」だが、4幕冒頭で歌われる「ホフマンの舟歌」が圧倒的に有名。この幕だけ舞台がヴェネツィアという設定ゆえ舟歌を入れたのだろう。これを前出の成田伊美とジュリエッタ役のソプラノ、池端 歩が歌った。二人は声質も息もとてもよく合っていて、聞き惚れていた。
アントニアを歌った吉田恭子だが、20年ほど前にアプリコ大ホールが出来た直後の大田区民オペラで「ノルマ」を林 康子とダブルキャストで演じていた筈と、終演後ご本人に確認したら、びっくりされていた。20年もの間、声をそのまま維持するとは!
終演後、舞台に並ぶ出演者たち。人数が多いので、乗り切れないほどの事態に。
終演後、ごった返すロビーで、撮影させてもらった。
#12 文中敬称略