ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

第17回東京音楽コンクール本選

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赤丸印は本選出場者、計5人

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このプログラムは2次予選と本選を兼ねているからこうした編集になっているのだろうが、本選に進めなかった出場者の本選で歌う曲も掲載されている。この辺は駆け引き要素もあるだろうが、本選で予定していた曲をその前の予選で歌えばよかったと思った本選候補者もいたかも知れず、なにかものの哀れを感じてしまう。

そして迎えた本選は、

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結果は予想通り、工藤和真が1位なしの2位と聴衆賞、3位は井出壮志朗

工藤は以前も日伊コンコルソかな、聴いた時も、こりゃまたすごい新人が出現と驚嘆したものだが、安定感抜群、所作振る舞いも実に堂々たるもので、とても29歳には見えない。

3位の井出壮志朗、実は5,6年前にバタフライの端役で聴いたことがあり、大物の予感はあったものの、まさかここまで大化けするとは思っていなかった。工藤に勝るとも劣らない歌いっぷりで、こちらも30歳には思えない。何かベテランの風格さえ感じられるほど。楽しみな逸材が出てきたものだ。

小川栞奈はコロラトゥーラ。青島広志の「魔笛」(6/19)で聞いていて、鮮明に印象に残った新人。ただ出だしのCaro Nomeは、中音部にかすかに声のざらつきのようなものが聞こえ、その後、持ち直したが、本調子ではなかったかも知れない。ピュアな切れのようなものが少〜しだけ足らなかったような印象。まだ29だからねぇ、どこまで伸びるか楽しみだ。

前川健生も、すでになんども聞かせてもらっている。うまいのだがまだまだ駆け出しの印象が拭えないでいた。今日聞いて進化のあとがくっきり。最後のドン・パスクアーレの詠唱、Povero Ernestoの最終部分は最高音を長〜〜く延ばして終わり、大喝采を浴びていた。

竹下裕美はまったく初めて。テクニックもあるし、やや太めのリリコ・スピント系で落ち着いた歌唱も好印象を残した。ただ、彼女のやや細かいヴィブラートは好みが分かれるだろうが、愚亭はちょっと苦手だ。

というわけで、妥当な結果に落ち着いた。だが、どうもこの1位なし、というやり方は合点が行かない。下手をすると主催者が賞金をけちっているようにも映りかねない。過去にも1位なしということは何度かあったが、審査員たちがどのような判断を下してそうしているのか、我々は知る由もないだけに、モヤモヤ感だけが残る。

#55 文中敬称略

ユニコーン・シンフォニー、第10回記念定期演奏会

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以前合唱団でお世話になった指揮者、神成大輝はまだ22という若さで、しっかり指揮者への地歩を固めつつある。その後も何度か彼の演奏会に我が合唱団員たちと出かけている。

今日、普段聴く機会があまりない演目が並んだ演奏会が、晴海のトリトンスクエアにある第一生命ホールで開かれ、午前中の合唱練習の後、蒲田から勝どきまで脚を運んだ。

第1曲は珍しいデンマーク人の作曲家の作品で、初めて聞いた。重々しい弦の低音部から始まり、いかにも北欧的な雰囲気を奏で、演奏会の序奏部としてはぴったりの演目。

2曲目も初めて聴くが、実はつい最近も芥川也寸志交響曲を川崎で聴いたばかりで、ある程度は予測可能ではあったが、なんとも若々しさの漲る曲想。これが戦後まもない、彼がまだ芸大の学生時代の作品であると知って、才能の早い開花に驚かされる。

後半、今日のメインであるシベ2は、すでになんどか聴いているが、この若い楽団員が演奏するには、いささか重々しいバックグラウンドもった作品なのだが、見事な弦の響きと、それに呼応する管がよく鳴っていて、壮大なフィナーレにいざなわれ、ひとしきりブラーヴォが飛び交った。

アンコールはシベリウスのアンダンテ・フェスティーヴォ。弦楽による心に染み入る小曲。

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ブーケを団員に見せるマエストロ神成

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楽屋の入り口で。

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昔の教え子(?)たちと

#55 文中敬称略

二期会サマーコンサート 2019@さくらホール(渋谷)

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恒例の二期会サマーコンサート。今回は2日間公演。初日は合唱練習が重なり、2日目だけ聴くことになった。

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毎度のことながら、なんとも豪華なラインナップ!全員がBraviだから、何を書くか悩ましい。

そんな中で、初っ端に登場した佐藤優、ずーっとヴェローナに留学してそのまま滞在しているから、久しぶりに聞かせてもらったが、やはりうまさは相変わらず。そこになにか余裕が感じられ、歌の”幅”が出てきたような印象。

”我が祖先の墓よ”を歌った中島康晴、若い頃から逸材として内外に名を轟かせていた頃もあったが、一時スランプも経験、愚亭も多分、生でこの方の演唱を聞くのは初めて。噂に違わず、巧みな唱法で、引き込まれる。声質は、柔らかく包み込むような種類とでも言おうか、あまり類似の歌手はいないのではないか。

塩田美奈子は、以前からスペインものを得意としていて、しばしばサルスエラを取り上げるがこの舞台でも民族衣装に身を包み、カスタネットを軽快にならしながら聴衆を魅了。独特の色気は健在。

腰越満美、だいぶ以前から聞いていて、最近はしばらくご無沙汰だったので、ちょっと気にはなっていたが、今日の歌を聞く限りはまだまだ行けそうだ。それにしても、ゴールドの衣装、それも裾が超ロングな格好で登場した際は、場内が一瞬静まり返った。

#54 文中敬称略

「シモン・ボッカネーグラ」演奏会形式@かつしかシンフォニーヒルズ

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毎年、この時期にエルデ・オペラ管弦楽団主催の演奏会形式のオペラがここ何年か連続して開催されており、ほぼ聞きに行っているのに、今年はすっかり失念していて、フィレンツェ在住の名バリトン渡辺弘毅のFB投稿で初めて知った次第。幸い、予定を入れてなかったので早速彼経由、チケットを入手。

更に、昔から応援している高橋絵理もこのシリーズの常連だけに、絶対にはずせない公演であった。

渡辺弘樹、重厚かつ甘美な表現のできる、日本でも数少ないバリトンという認識でいる。その彼が難病で昨秋、帰国して大手術を受けていたことを知ったのも、ごく最近のこと。愚亭も軽度だが、現在頸部に同様の問題を抱えているだけに、とても他人事と思えない心理状況である。

手術から1年も経過していないのに、いきなりヴェルディの作品中でも、とりわけ重厚かつ難易度の高いシモンに挑戦するとは、かなり無鉄砲にしか見えなかった。はらはらドキドキして開演の時を迎えたが、まあ、幸いそれは杞憂に終わった。それほどびっくりさせるほどの演唱を示し、その大胆さにまずは脱帽である。

以前の声はきちんと出ているだけでなく、気のせいか、一味加わったような新鮮さも感じた。(ひさしぶりに聞いたせいかも)特に終幕近くでシモーネが弱々しく(死ぬ間際だから)歌うシーン、最後の聞かせどころだが、ややファルセット気味に、それでも会場奥まで響かせる技に改めて感動した次第。次は、頸部の手術をすることが決まっているらしいから、安心できないが、速い完全復帰を楽しみにしたい。

高橋絵理のアメーリア、これがまたゼッピン!!成長著しいこの歌姫、会場の広い空間はまさに自分のためにあるかのごとき響かせ方には圧倒されまくった。体力の限りを尽くして、この難役を歌いきった印象。今日は演技を伴わないから楽譜みながらの歌唱に専念できただろうが、演技を伴うとどのような変化が出るのか興味が尽きない。

前半は目の覚めるような真紅のドレス、後半は対照的に鮮やかなブルーのドレスに、大柄な身をつつみ、いよいよ正統派の大ソプラノへと確実に歩を進めているように映る。

恋人役のテラッチこと寺田宗永は、本作で唯一のテノールで、出番は上二人ほど多くはないが、重要な場面で登場し、素晴らしいアリアも用意されていて、割に省エネで得な役どころかも知れない。この人の勢いのある高音も聴衆を魅了してやまない。高橋とはしばしば共演していて相性がすこぶるよいように感じている。

シモンは正味2時間10分で、特に長いわけではないが、ストーリーが難解で、またこれと言って目立つアリアが多く組まれいているわけでないから、実際より長く感じてしまう。

それでいて、主要キャストにはかなり過重な発声が求められているようで、あまり上演される機会が多くないというのもうなずける。また、男性陣はバリトン・バスの低音勢が4人もいるのに、テノールは一人、女性はアメーリア一人とかなり偏った編成で、ほかにこのような声部を配したオペラは知らない。

演奏会形式とは言え、フルオケが入り、今売り出し中の柴田真郁のタクト、しかもたったの@¥3,000(自由席)であれば人気が出て当然なのに、入りがさほどよくなかったのは、お盆の時期と重なったこともあるのかも知れない。

昨日に続いて、なんと今日もあの縦型のトロンボーンが登場した。幕間に知り合いのマエストロに会ったので聞いたところ、チンバッソというコントラバストロンボーンで、ヴェルディは好んで用いたそうだ。日本では十数台しかないという珍種の楽器。チューバとトロンボーンの中間的存在で、スライド式でなくヴァルブ式だから、細かいトリルなど、スライド式では出せない奏法も対応可ということ。

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これがチンバッソ!楽団員入場のシーンではひときわ目立つ。あまりにキテレツで笑ってしまう。

チューバの代わりに登場することが多いが、昨日のヴェルレクではチューバとチンバッソを合わせて女性奏者が一人で頑張っていたから、この二つの細かい使い分けをヴェルディ先生はしていたことになる。

合唱団、ご苦労様でした。長いオペラだが、合唱の出番はさほど多くなく、スタンバイがやたらに長くて大変だったろうと思う。オケは定評あるエルデ管弦楽団、安心して聞いていた。

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このホール、舞台の天井がやたら高く、響も素晴らしい。アプリコも負けそう。

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左端が柴田真郁マエストロ。中央はバス・バリトン、シモーネの敵役、フィエスコを歌ったジョン・ハオ。愚亭と同じ瀋陽出身だから、終演後、話をしようと思っていたが、チャンスを逃した。

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#53 文中敬称略

夏祭ヴェルレク@ミューザ川崎

190817 知り合いが二人も出演するので、一番暑い時間に出動。自由席で人気の演目だから、開場時間の30分まえに到着。列はそれほど長くはなかった。幸い、目指す2階の最前列、やや左寄りに陣取る。

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ややゆっくりめのタクトだったか、90分近い演奏時間だった。しかし、合唱団にはかなり座らせる時間が長く取っていて、この辺はマエストロの考え次第だろう。

ソリスト陣、素晴らしいバランスで、聞き応えタップリ!!ソプラノの大音絵莉は、すでに何度も聞いているが、宗教曲はこれが初めて。かなりの高音をピアニッシモで引っ張る難易度の高い箇所もなんなくクリア。澄み渡ったピュアな美声である。オペラより宗教曲向きなのかも。

メゾの益田早織は初めて聞くが、あとで本人に確認すると現在はびわ湖での活動が中心とか。ただし、出身は東京なので、いずれ東京でも活躍する日が来るだろう。今回はオーディションで出ることになったとか。全員芸大出身だが、彼女が一番後輩ということだ。かなり粘度の高い、よく響く発声で、今後が楽しみなメゾ。

山本耕平もすでになんども聞いているし、国技館第九では共演(?)も果たしていて、よく技量のほどは知っているつもり。今回も期待に違わず立派に務めていた。

ベースの菅谷公博は初めて聞く。うまい!経歴を見ると、それほどオペラには出演していないようで、彼もこうした演目が得意らしい。声もいいし、たっぱがあり、見栄えも十分。オペラにもどんどん出番を作って欲しい。

合唱、素晴らしかった。全部で180人ほどか。まとまり、すこぶる良し。ところが、オケの上の方に陣取っていることもあり、とりわけ管がフォルテを吹くと、合唱が聞こえなくなるところがなんどかあって、残念に思った。特に男声が聞こえなかったのは、やはり少し配置を考えた方がいいのではと思った。

トランペットのバンダが頑張った。8人の若手(洗足学園の学生たちが中心とか)が登場して吹きまくった。これはそれなりに効果的だった。

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上手側、アルト

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下手側にソプラノ

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終演後、せっかくマエストロがバンダを呼び出して喝采を浴びさせようとしたのに、スポットが当てられていない。ミューザとしたkとが!

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奥のやや右寄りにチューバとバストロンボーン担当の女性が。チューバを小脇に抱えて登場した時は思わず「おっ!」と言ってしまった。珍しい光景だもの。またバストロンボーンでも更に一回り大きく、下向きに支えがついており、スライドするのではなく、トランペットのようにピストンを押して鳴らしていて、こんなトロンボーンは初めてお目にかかった。

終演後、ソリスト陣を探していたが、出てこないので諦めかけて、エスカレーターで下の階に降りたら通路に、メゾとソプラノが。しばしおしゃべりして、ツーショット撮影まで。いやぁ〜、おつかれさんでした!!

アンコールはヴェルディの「ナブッコ」から「行け、話が思いよ、黄金の翼に乗って」、丁度、海の日のアンコールでも歌ったし、年末の我が合唱団の定期演奏会の演目のひとつでもあるので、自分もサイレントで歌っていた。

#52 文中敬称略