ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「ルノワール 陽だまりの裸婦」

131015 原題:RENOIR [監]ジル・ブルドス それにしても随分通俗的邦題よ。そう言えば同じ映画館で「陽だまりの彼女」という駄作(オッと失礼!今、ネットで調べたら、なかなか好評のようだ)もやっていたっけ。

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最晩年のルノワール(1841-1919)を描いた作品。舞台は南仏。原作は曾孫のジャック・ルノワール。画家はピエール、ジャン、クロード(ココ)と3人の息子をもうける。時代設定は1915年で、第1次大戦(1914-18)の真っ最中。ピエールとジャンは前線に送られ、兄は腕を、次男のジャンは脚を負傷し、治療のため、帰国することに。ジャンは後に映画監督として、傑作「大いなる幻影」などの作品を残し、ハリウッドで没する。

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映画は、モデルとして採用することになるアンドレという若い女性(クリスタ・テレ)にルノワール自身が面談するところから、始まる。画家はこの頃には全身にリューマチを発症、特に両手はこわばり節くれ立った指は木の根っこのごとく変形し自由が利かない。そのため、絵筆を指にしばりつけての制作で、絵の具を出すなどの細かい作業は手伝いの女たちの仕事になる。

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そこへひょっこりジャンが帰省してくる。うぶなジャンと世慣れしたアンドレの間に微妙な感情が漂うことを、画家は大いに気にしており、ジャンもそれに気づいている。周囲もどうなることかと気を遣うが・・・。ま、結局なるようにしかならない。

 

この作品が描く南仏の美しい景色が、まるでルノワールの絵のように美しく、瑞々しい。だが、作品として焦点がどこに当たっているのか、はなはだ曖昧なまま進行していき、終わってみれば、観客は置き去りにされたような感覚に捉われる。

 

脚のリハビリに努めるかたわら、父の制作につきそい、手伝うジャンとの会話。黒い絵の具は?と訪ねる息子に「ワシは暗い色は使わんのだよ」。傷が癒えたら、前線に戻りたいという息子に「運命には逆らわんことだな。お前は浮きになればいいのだ」など、含蓄のある言葉が出て来る。

 

ある日、川っぷちで女たちとピクニックを兼ねた制作へ。川遊びしている女たち、そこへ一陣の突風が。大慌ての女たちを眺めなら、"Merde, c'est beau!"とつぶやき破顔一笑の画家。

 

merdeは一般的には「くそ!」と罵る時に使われることが多いが、反面、舞台などで出演者に向かって言えば「がんばれ!」になるし、ここでは「すごい!いい光景だわい!」程度の意味で、あられもない格好であたふたする女性たちの姿がよほど楽しかったに違いない。

 

主人公を演じたミシェル・ブーケは現在84歳だから、演じたルノワールより10歳も年上ということになるが、よく雰囲気が出ていた。この人、昔はフィルム・ノワールによく登場し、冷徹、というより冷酷な刑事役などを得意としていた俳優。

 

因に、本作は今年度のアカデミー賞の外国映画部門に仏から出品が決まっている。

 

 

#86 画像はIMdb及びALLCINEMA on lineから