140115 雪がちらつきそうな中、近くの大田区郷土博物館へ。この展覧会、以前にも一度来ているが、今回は更に大掛かりな回顧展で、400点を前期,中期、後期の3回に分けての展覧会。今は中期の作品、200点を展示している。
風景画が圧倒的に多いが、今回は木版画の脇に原画、あるいは更にその元になった文庫本サイズのスケッチブックが併せて展示されていて、大いに興味をそそられる。スケッチの巧みさと細かさはどうだろう!
木版画になるまでに、スケッチから起こした原画、更に木版画の為の版下を製作し、今度は彫師がこれを版木に貼付けて彫るという手順だ。最後に、刷師が登場して、やっと完成という、少なくとも3人がかりだから、えらいことだ。
その割りに、作品は絵師だけが栄誉を浴びることがほとんどで、彫師と刷師はいつまでも裏方というのが、いかにも気の毒。売れた場合は、どういう配分になるのだろう。版権を持つ版元が一番貰うんだろうか。せめて、彫師、刷師にも応分の取り分が行って欲しいと思ってしまう。
川瀬巴水(1883-1957)は、大正15年頃、我が家の近く、現在の地番で言えば、大田区中央4丁目に住んでおり、その後、昭和5年からは、やはり近くの、それこそ今回展示会場のある南馬込に住んでいたので、近所だった池上本門寺や周辺を描いた作品が多いのが、まことに嬉しい。まさに郷土の大版画家という訳だ。
大正初期、やはり近くの池上梅園に居を構えていた同門(鏑木清方門弟)の伊東深水の連作木版画を見て、俄然木版画に興味を抱き、制作に意欲を燃やしたと解説にある。
明治に入ってから衰退の一途であった江戸期から続いた木版画を何とか復興させようと、新版画を提唱していた版元、渡邊庄三郎の元で制作にいそしみ、大正から昭和にかけて、生涯で実に700点の作品を残した。海外でも彼のコレクターが少なくないと言う。
広重や北斎のような極端な遠近法(近像型)を用いてはいないが、味わい深い作品がすこぶる多い。雪景色、水辺の風景、人物の点景、夜景などに独特の雰囲気がある。