ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「セッション」

150427 原題は WHIPLASH(むち打ち)米 107分 [監・脚]デイミアン・チャゼル

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⬆︎音程がちょっとずれてしまったトロンボーン奏者、音のズレを”自己申告”しなかったと散々罵倒された挙句、その場でクラスから叩き出されてしまう。

世界一のドラマーを目指す19歳のアンドリュー(マイルズ・テラー)、ニューヨークの名門音楽学校で、運良く著名な教授フレッチャー(J.K. シモンズ)に見出され、彼のバンドで鍛えられることに。才能を認めてくれたと思っていたのも束の間、連日地獄の猛特訓で、口汚く罵られ、その上、フレッチャーは敢えてライバル・ドラマーを常に同席させ、少しでも手ぬるい演奏をしようものなら、いつでも交代させると強烈なプレッシャーをかけてくる。

ついでながら、フレッチャーの罵詈雑言の数々をいちいち日本語訳にするのは、さぞ大変だったろうと思われる。fxxx, motherxxxkerなど序の口で、聞いたこともないような言い回しが無数に。

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⬆︎「もっと速く、もっともっと」と一切の妥協を許さないフレッチャー。

あどけない表情のアンドリューだが、次第にフレッチャーに対し、尊敬しつつも”対抗心”が湧き上がってくる。そして大事な演奏会当日、会場に向かう途中、交通事故に遭い、血だらけになりながらも舞台に駆けつけ叩き始めるアンドリューだったが・・・

徹底的にしごくフレッチャー、これに必死でついていこうとするアンドリュー、二人の間に飛び散る殺気のようなものが見る側にも強烈に伝わってくる。

本作でアカデミー助演男優賞を受賞したJ.K. シモンズの鬼のような形相と怒鳴り声を伴う演技が圧巻である。また、実際に半分以上自身でドラムを叩いたマイルズ・テラーのプロ根性にも脱帽である。

ラストシーン、フレッチャーの制止を振り切って、一人でドラムを叩き続けたアンドリューはフレッチャーと新たな関係が築けるのか、はたまた決別か・・・フレッチャーが、自分を裏切ったアンドリューに対するリベンジで仕組んだ罠に落ちたアンドリュー、これが起死回生の一手になったようだ。

この邦題はなかなか上手い。原題の「むち打ち」は、どうもいろんな意味が込められているようだが、そのまま邦題にするのはちょっとリスクが高い気がする。

全編のほとんどがジャズの演奏というのも、珍しい作品である。それでも息詰まるような展開を貫いた脚本は見事だ。

導入部で、いきなりフレッチャーからテンポがなっていないと、何度も何度も同じところを叩かせ、そのうち間違える度に強烈な平手打ちが飛んでくるが、本番では実際に思いっきりひっぱたいて臨場感を出したそうだ。ま、そのくらいはやるワな。

また、フレッチャーの余りの意地の悪さにブチ切れたアンドリューが、フレッチャーに飛びかかるシーンでは、実にJ.K.シモンズの肋骨2本折るという激しさ。

また音楽学校を生徒虐待の罪でクビになったフレッチャーが町のライブハウスでピアノを演奏するシーンも、J.K.シモンズ自身が演奏したというから、彼の音楽的才能もなかなか。

2時間弱の作品だが、実に見所、聞き所満載である。この作品、24日で撮影完了、しかもほとんどがセットで撮影、出演者もいわゆる大スターでないということで、史上、最も安上がりでアカデミー賞を取った作品とされる。

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