ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

ミラノ・スカラ座公演「ファルスタッフ」@東京文化会館

130912 たまにこういう”本物”を見ると、高揚感が別物という感じがする。管弦楽団から合唱、大道具まで引き連れた、まさしく本物の引っ越し公演を見るのは本当に久しぶりだ。まさに華麗、洗練、豪華、洒脱、繊細、etc. という舞台だった!

f:id:grappatei:20130913111145p:plain

今日の席は⬇オペラグラスを使わなくて十分の席だが、表情を確認したくて、何度がオペラグラスを覗いた。

f:id:grappatei:20130913102424j:plain

マエストロのダニエル・ハーディングは同じイギリス人のサイモン・ラトルの秘蔵っ子だったらしいが、まだ38歳になったばかりの鬼才。きびきびした精緻な演奏、さすがである。

ロバート・カーセンの演出が、随所に冴え渡る。やはり生オペラの大きな楽しみの一つは演出だろう。なんでもかんでも現代に置き換えるという考え方には、ちょっと引いてしまうが、この程度なら、どんどんやって欲しい。1950年代という設定らしい。

重厚で上質なパネルを壁面に用いた、ロンドンのメイフェア辺りにあるような会員制俱楽部を思わせるようなガーター亭かと思うと、当時としては超近代的な明るいキッチンが第2幕、第2場で使われると言う風に、舞台セッティングの対比が絶妙である。それにしても、見事に作り込んであって、これなら引っ越し公演でしか無理でしょう。

ヴェルディ最後の作品と言われるファルスタッフだが、耳馴染みが頗るよいアリアは残念ながら多くはないが、全体の調和が素晴らしいということだろう。80歳のヴェルディはこの作品造りを大いに楽しんだらしい。

このオペラ、主要登場人物が多いから、同じ力量の歌手を揃えるのはなかなか大変だろう。その意味でも、さすがスカラ座、よくぞこれだけ揃えてくれた!という印象が強い。

タイトルロールのアンブロージョ・マエストリは、この役のために生まれて来たかのような当たり役、はまり役である。巨躯もまん丸い顔も、もちろん豊かな低音から高音まで自在に操れるテクニックと相まって、当代随一のファルスタッフであることは間違いない。ほとんど神の領域と言っては言い過ぎかな。

2006年夏、偶然、パリのオペラ・バスティーユで見た「愛の妙薬」で、ドゥルカマーラを演じていて、その時の強烈な印象があった。確かに、この役にもぴったりであるなぁ。カーテン・コールの際、最前列まで言ってブラーヴィ!!をやって来たときの印象も、随分人の良さそうな雰囲気を醸し出していた。

聞くところでは、マエストリがこの役をやるのももう余りないらしいから、いいチャンスに聞けてラッキーだった。

バルバラ・フリットリ、ダニエラ・バルチェッローナは、今更ながらで、褒めちぎる必要もないが、フリットリさんは少し痩せたようだ。巨体のバルチェッローナも、マエストリの前ではさすがに小さく見えるからねぇ。

第2幕第2場では、哀れファルスタッフ、洗濯籠からテームズ河へ投げ込まれると言うシーンがある。何せ160kgほどの巨体、どうやって動かして、どの時点ですり抜けたか分からないのだが、実にうまく「投げ込んで」、ご丁寧にも大しぶきが上がり、フォード氏がびしょ濡れになるというオマケまで。

同じく第2場で、家捜しのシーン、四方八方からありったけのものが空中を飛び交うところも受けましたねぇ。

第3幕では、本物の馬が登場、窓から首だけ出して、飼い葉をムシャムシャ。オケの大音響にも、マエストリの大発声にもびくともしないから、余程鍛えられているのだろう。これもミラノから連れて来たイタリア馬のようだ。これじゃ金がかかる訳である。

話を戻して、フォードのマッシモ・カヴァッレッティ、フェントンのアントニオ・ポーリ、更にはナンネッタのイリーナ・ルングモルドヴァ出身の美形)、メグのラウラ・ポルヴェレッリ(粉か埃か、ケッタイな姓だ)、いずれ劣らぬ名歌手たちで、さすがスカラ座に出る連中だけあって、レベルの高さには脱帽。

カーテン・コールで、マエストロが金杯を持って登場し、それをマエストリに手渡し、更に、舞台の丁度プロンプター席辺りに置いてある大鹿の角の前に置いた。何かいわれのある金杯だろうが、後で係に聞いたら、来日中に出場したフットサルでの優勝トロフィーとか。この辺りも茶目っ気、たっぷり。

ところで、ダニエラ・バルチェッローナ、誰かに似ていると思っていたが、そうそう、ルノワールの恋人で、後に妻となるアリーヌ・シャルゴに顔も体型もそっくり!(身体、見たわけじゃないけど・・・想像)

f:id:grappatei:20130913114938j:plain

本人が聞いたら気を悪くするだろうか。するなぁ、そりゃ。

#47