ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「雪の轍」

151211 原題:KIS UYKUSU(トルコ語で冬眠のこと)脚本・監督:ヌリ・ビルゲ・ジェイラン

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カッパドッキアでホテル・オセロなどを営む元俳優のアイドゥン(トルコ語で、教養人という意味だそうだ)、は、親から莫大な遺産を相続しただけでなく、幾つかの不動産から上がる賃貸収入もたっぷり。家には自慢の美人妻がいて、今はトルコ演劇史を執筆中と、どこから見ても豊かな人生だが、心は必ずしも満たされていない。

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⬆︎妹とも初めのうちは、言い争いというわけでなく、むしろ同調するような雰囲気なのに、なぜか必ず意見がずれていき、最後は気まずい思いで妹が部屋を出て行くというパターン。

テナントと延滞料の取り立てでもめてみたり、出もどりの妹とも、議論がかみ合わず、延々と不毛の言い合いとなる日々。若妻が、生きがいにしているヴォランティア活動に、いちいち口を挟もうとするから、彼女とも口げんかが絶えない。

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⬆︎若妻のニハル(メリッサ・スーゼン)は、ご覧の通りの美貌で、ひとも羨む存在。なのに、言い合いの日々。

やがて雪が降りだすと、宿泊客も途絶え、まさに冬眠生活。最後の宿泊客は日本人カップルとライダー。彼らが出発してしまうと、陰鬱な空が荒涼とした高原を覆い、アイドゥンの心は一層冷え冷えと沈むばかり。

ある宿泊客がホテルのパンフレットに写っている野生の馬を見て、ホテルで乗馬ができるかと勘違いした話を聞き、なんとか無理して野生馬を1頭調達してみたものの、結局のところ、ほとんど飼い殺し状態。

ある日、妻との言い合いから行きがかり上、自分が出て行って、当分帰らないからと宣言。翌日早朝、まずは暗い厩舎へ立ち寄り、せっかく捕獲した馬を放してやり、使用人の運転で、雪の中を駅へ向かうものの、待合室で、急に気がかわり、友人宅に立ち寄って、友人たちとも不毛の議論の末、妻の元へ。

妹、妻、友人たちとの会話のシーンが何せ長い!全体で196分(3時間16分)という長い作品だが、もともとは200時間も撮影、苦労の末、それを4時間半にまとめたのだが、更に196分まで短縮してやっと公開にこぎつけたとか。カンヌ映画祭で、パルムドールを取った一番長い作品。

会話の内容は、かなり高度に哲学的で、それはそれで面白いところもあるのだが、かなり疲れる。お互いに行き詰まりを感じながらも、どうすることもできず、また元へという繰り返し。それこそが人生そのものと、この監督は言いたいのか。

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これがラストシーン。

#93 画像はALLCINEMA on lineから