ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

西荻のライブハウスへ

171003 西荻窪に快速が止まることを改めて知ったほど、滅多に行く機会のない土地へ。駅至近にあるライブハウスが目的地。

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かなり昔になるが、応援しているソプラノの江口二美が、日野のある寺でコンサートをやったことがあった。その時、伴奏がてら一緒に演奏したのが、今日の主役フルーティスト、渡瀬英彦である。五味こずえもその時のピアノ伴奏を務めていた。

今日はゲスト出演者として、その江口二美がジョイン、主役は入れ替わっているが、あの時の再現となった。

ご覧の通り、渡瀬は巨大なバス・フルートがお好きなようで、今宵もほとんどこれを使って演奏した。「これが、え、フルート?!」というような、超低音の音色は曰く言い難し。

自分も中学時代にフルートに親しんだことがあり、もともと好きな楽器だし音色なのだが、まるで別物のごとき味わいを生む。後で聞いたら、普通のフルートとこのバケモノとの間にもさらに何種類かフルート族がいるらしい。以外に奥が深い世界だ。

渡瀬が何曲か披露した後、若手サックス奏者、山口みずえが登場、フルート、ピアノとの三重奏で、シャルル・ケクラン作曲「ジーン・ハーロウの墓標」(Epitaph de Jean Harlow)を演奏。清澄な調べが耳に心地よい。ちなみに1911年生まれのジーン・ハーロウは26歳で病没してしまったが、当時セックスシンボルと呼ばれたハリウッド女優。名前を知っているだけで、残念ながら、出演作は一本も見ていない。

ついで、江口二美が2曲、同じくケクランの叙情小品集「リリアンのアルバム」(L'album de Lilian)から1曲。ヴォカリーズで、江口の爽やかな声が他の楽器とよく和して、美しくハーモニーを構成していった。

2曲目はアンドレ・プレヴィン作曲の「二つのリメンブランス」。珍しく英語による歌唱。とても新鮮に響いた。プレヴィンは、その名前から、自分の中ではフランス人だったが、実はドイツ系ユダヤ人であった。作曲家、ピアニスト、指揮者として、アカデミー賞受賞歴もあるし、名声を恣にしている、まあ才人、しかも美男。当然、浮名も流しっぱなし。ヴィアオリニストのアンネ・ゾフィー・ムッターと結婚していたことは、まったく知らなかった。(その後、別れたが)

最後に20分を超える演目があった。木下正道作曲「色即是空 空即是色」!演奏をバックに渡瀬が朗読したのはフランスの哲学者・小説家、モーリス・ブランショの作品からの抜粋。第2時大戦末期、ナチスに占領されたフランスの片田舎で、ナチスに肩入れしたソ連のウラソフ軍出身ロシア兵に銃殺されかかり、辛くも死を免れた体験を著した最後の小説「私の死の瞬間」である。渡瀬の朗読力にも感心したが、着眼がすばらしい!朗読を聴きながら戦慄を覚えたのは、ナチスが村民全員を虐殺したオラドゥール=シュル=グラヌを思い出したからだ。

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一番後ろに陣取ったから、映っているのは聴衆の頭ばかり。「ジーン・ハーロウの墓標」を演奏するアルトサックスの山口みずえと普通のフルートに持ち替えた渡瀬英彦

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リリアンのアルバム」からヴォカリーズを歌う江口二美とバスフルートの渡瀬英彦。江口は珍しく真紅のドレスと同色のハイヒール。

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終演後の出演者全員。(掲載許可をいただきました。ありがとうございます!)


いろんな意味で大変興味深い演奏会であった。駅までわずかな道のり、見上げれば中秋の名月

#65 文中敬称略