ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「君の名前で僕を呼んで」

180601 CALL ME BY YOUR NAME 132分 伊仏米ブラジル合作  原作:アンドレ・アシマン、脚本:ジェームズ・アイヴォリー、監督:ルーカ・グァダニーノ

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⬆︎にデザインされているのは桃。これが物語の流れで意外な意味を持つのだが、それは見ないとわからない。

文句なしの秀作である。監督より先に脚本のジャームズ・アイヴォリーに目が行ってしまったが、いかにも彼好みの原作だったのだろう。「眺めのいい部屋」(86)、「ハワーズエンド」(92)、そしてカズオ・イシグロの原作「日の名残り」(93)、いずれも脚本ではなく監督として撮った作品。てっきりイギリス人と勘違いしていたが、実はカリフォルニア出身で現在90歳。

舞台は北イタリア、クレモーナ県にあるクレーマ(Crema)というコムーネ。町外れにある別荘暮らしを楽しんでいる考古学者、パールマン教授(マイケル・スタールバーグ)一家。そこへアメリカから助手、オリヴァー(アーミー・ハマー)が手伝いにやってきて、一夏を一家と過ごすことに。

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そこで芽生える、一人息子エリオ(テモテ・シャラメ)とオリヴァー(アーミー・ハマー)の間の親密な関係を軸に、クラシック調の音楽をバックに、緑豊かな自然の中で育まれる人間の営みを情感豊かに、瑞々しいタッチで描いていく。

切ないほど初々しい感性を持った17歳の少年、エリオを演じるフランス人、シャラメ(20歳)の演技が素晴らしい。美青年であり、どこかトーマス・マン原作、ルキーノ・ヴィスコンティの「ヴェニスに死す」に登場するビョルン・アンドレセンを彷彿とさせる。

この一家、多分名門の出という設定と思われるが、家族間の会話が、時にフランス語、時にイタリア語、奥さんはドイツ語まで堪能で、即座に伊訳して息子に哲学書を読み聞かせる場面も。そしてオリヴァーとは当然、全員流暢な英語での会話となるという具合だ。

そうした中で育つ子供達も自然に高い教養を身につけていく。本に親しみ、自然に溶け込み、周囲の地元の人たちともうまく馴染むという、まあこれ以上望めない知恵を身につけていく。

それにしても、エリオという男の子の甘えぶりというか、両親の育て方というのが、日本人の感覚からすると、かなり違和感がある。多感な高校生でありながら(日本なら反抗期)、親の膝の上に寝そべったり、それも半裸でというのは、一種異様である。

結局、約束通り、オリヴァーは夏いっぱいでアメリカに帰っていく。一人残され、悲嘆にくれるエリオに父親がかけるセリフが素晴らしい。父親には息子の考えも思いもすべてお見通しなのだ。「二人の友情は素晴らしい、友情以上かも知れない。そのことをお前は恥じることもないし、抑える必要もないのだよ」

半年後、今度は雪の降るクリスマス(彼らはユダヤ人なので、ハヌカ祭)、アメリカにいるオリヴァーからの電話。その後、一人暖炉の前で、ずーっと涙を流し続けるエリオ。背景には食卓の準備をする家族の姿がぼんやり映っている。

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中央がルーカ・グァダニーノ監督

#46 画像はIMDbから