190422 VICE 米 132分 脚本・監督:アダム・マッケイ
先日見たばかりの「記者たち 衝撃と畏怖の真実」が外側からW.ブッシュ政権がデッチ上げたイラク戦争の真実をあぶり出したのに対し、こちらは内側からそれを暴いている、その対比が面白い。アメリカという国の、こういうどちらかと言えば、かなり際どい話を半分茶化して映画化してしまうお国ぶりには毎度感心させられる。
ディック・チェイニー( Cheneyと綴って、チェニーではなくチェイニーと発音するから、人名の発音は難しい。)がもちろん主人公。若い頃はかなりワルだったようで、酒浸りで、結構問題を起こしていたようだ。
せっかく名門のイェール大に進んだのに退学処分になるなど、かなりいい加減だったようだ。それを叩き直したのは結婚相手のリン(エイミー・アダムス)。良くも悪くも、彼のその後の人生はこのリンに負うところが極めて大きい。
彼女のおかげで政界に進出したチェイニー、とんとん拍子に出世街道をまっしぐら、気がつけば史上最年少でパパ・ブッシュ政権の首席報道官。だが、次の選挙でクリントンに敗北、下野して石油会社の雄、巨大企業ハリバートンのCEOに。順調に家族とも幸せな生活を、などという場面となり、なんとここでエンド・クレジットが流れ始める。
この監督、一流の”お遊び”。思わず「え!」となるが、ここからがまあ本筋。大統領選に打って出るというブッシュ家のバカ息子と言われていたジョージ・W・ブッシュから副大統領候補に請われ、もちろんリンはそんな話!と一蹴。一旦は断るものの、会うだけならと。
ここで超悪知恵を働かせたチェイニー、とんまなW.ブッシュを見て、大きな賭けに。いやはや、そこまでだったとは、さすがに日本では、ほとんど知られてなかったのではないかと思われる話が次から次へと。
結局、9.11事件に乗じて、イラク侵攻を画策、終わってみれば、大量破壊兵器というまぼろしを信じ込まされ、世界中に多大な犠牲者を強いながら、自分たちだけはがっぽりという、こんな無茶苦茶な構図を、世界がよく放置するのよねぇ。
W.ブッシュは元より、ラムズフェルト国防長官も、コリン・パウエル国務長官、コリン・ライス補佐官(これもそっくりさん)も一蓮托生、まして張本人のチェイニーなんぞ万死に値する筈なんだが・・・。
どんな場面でも沈着冷静な主人公を演じたクリストファー・ベイルが凄い演技を見せる。20kgも太らせて撮影に臨んだらしいが、表情、姿勢、動き、喋り方、徹底的に研究したようだ。ラストシーン、インタビューアーの質問を無視して、視聴者を向いて、凄んで見せる場面は、監督でなくベイルが提案したそうだ。
ベイルは「ザ・ファイター」(2010)では、伝説のボクサーを演じるため、ガリガリになるまで体重を14kgも落として撮影に臨んだが、今回とは逆パターン、そんなに太らせたり、痩せさせたり繰り返していて、身体は大丈夫なのか心配になる。
この邦題、原題をそのままカタカナにしただけ。ま、他にいい案がなかったんだろうが、どうも原音表記派の愚亭としては、ヴァイスとして欲しかったが、国名でのヴの使用を外務省では禁止したらしいから、そのとばっちりかな。
蛇足:初めに、こんな字幕が登場する。
曰く、以下は一応ほんとの話か、ま、限りなくそれに近い話。なにせチェイニーは史上稀に見る秘密主義者だからね。それでも、我々はクソみたいに最善を尽くしたけどね。
ちなみにVICEには副の他に「罪」とか「邪悪」、「罪悪」の意味もあるから、それに引っ掛けたタイトルなのは明白。
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