200319
上演が危ぶまれる中、ゴーサインを出した主催者の勇気には恐れ入る。こちらもギリギリまで半信半疑。(ちなみに高齢の姉は、チケットは買ってあったが、さすがに断念)
チラシ裏面のキャプションにある通り、アメリカの平凡な地方都市に生きる市井の人たちのありふれた日常生活を14年というスパンで描き出した物語を、日本人がオペラに仕立て上げ、さらにチェルケット・ドールと称する小歌劇座が、その旗揚げ公演として取り上げたという次第。
舞台はシンプルそのもので、両側に椅子が並び、奥にベーゼンドルファー。登場人物もモノクロ衣装で、一切の無駄を省きました!という主張を感じた。ピアノが刻む単調な旋律がしばらく続いた後、進行係が町の様子を、よく通る歌唱と巧みな話術で観客に紹介し、物語が始まる。
演奏会形式ゆえ、全員が楽譜を持ち、移動など動きは最小限、わずかに表情などで感情を伝えていく程度。日本語だから、しっかりと筋が追えるのはありがたい。正味120分強と、実は意外に長いのだが、それを感じさせなかったのは、構成、演出、もちろん演者たちの歌唱・演技の妙だろう。
終幕は、結構哲学的な展開に。平凡さの中にキラリと輝く大事なものが潜んでいることに人間は気づかないもの、そしてそのまま生を終えていくのだ、というような人生観のごときものを進行係に語らせる。そういえば、先日、某朝刊に古代ローマの哲人セネカの言葉が紹介されていた。「時間だけが、これぞ自分のものと言えるものだ。これこそがどんなに感謝してもし足りないほど値打ちのある唯一つのもの」
こんな時期だけに、久しぶりに上質な音楽会が楽しめたのはラッキーだった。
#10