200321 THEY SHALL NOT GROW OLD (直訳だと「彼らに歳は取らせない」か?)英・NZ合作 99分 製作・監督:ピーター・ジャクソン
予告編を何度か見て、これは絶対に見逃せないと感じた作品。驚愕の作品だ。愚亭も一度行ったことがあるロンドン市内の戦争博物館の地下深くに、ずーっと眠っていた第1次大戦時に撮影された膨大な量の未公開フィルムを、この監督は1年がかりでチェックし、製作に取り掛かる。彼自身の祖父がこの大戦に参加していた因縁もどこかで感じたのだろう。
冒頭から30分は、終戦後生還を果たした元兵士たちの証言が、標準サイズの白黒画面で延々と続くから、少々眠気を催す。しかし、突如画面が拡大、さらにカラー画面となると、迫力が一変する。その瞬間が素晴らしい!
先日見たばかりでしかも絶賛した「1917 命をかけた伝令」が絵空事に思えてしまうほど、ずっしりとした重みを感じるのは実写しか持ち得ない真実がそこにあるからだろう。
兵士たちの生の声、これは画面に登場する兵士たちの口動きから発した筈の言葉を読み取り、できるだけ出身地に近い人物に喋らせるという気の遠くなるような作業を続けたという。また、ズシンと響く砲声、乾いた銃の炸裂音、etc.も、当時のものにしてはあまりに生々しいので、後からコンピューターで合成したものと思う。
いわゆる塹壕戦の、あまりに過酷な様子が、本作で赤裸々に映し出され、胸が悪くなる。好天ばかりでないのは当然で、塹壕内はジメジメと不健康そのもの。横穴をわずかばかり掘って思い思いに寝ぐらにしている。
着っぱなし軍服、履きっぱなし軍靴、臭気は放ち放題、さらに便所があるわけでないから、その辺に穴を掘り、適当に木を渡して、その上に尻を乗せて一列に用をたす姿など、時折ユーモラスにも映るが、ほとんど目を背けたくなるシーンの連続。
1918年11月11日午前11時、ついに休戦が成立。むしろ優勢だった独軍側からの提案だったらしい。前線に厭戦気分が横溢したのは、両軍共だが。そりゃそうだ、なんのためにこんなむごたらしくも惨めなことを続けなくてはいけないか、両軍兵士、上から下までの共通認識だったろう。戦塵に散った兵士は両軍併せて百万人というから、驚く。
かくして命からがら祖国に生還できても、ほとんどの若者に暖かい出迎えが待っているわけではない。第2次大戦時と異なり、英国本土はほとんど被害を受けていないし、英軍兵士たちがどれだけ辛い思いをしたことも一般市民は知らされてないから、帰還兵に信じられないほど冷淡に接したらしい。
そうした真実が今明らかになるという点でも、本作を世に出したピーター・ジャクソンは称賛されて然るべきだろう。
#13 画像はIMBdから