ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「西部戦線異状なし」

221102 IM WESTEN NICHTS NEUES 2022 2h28m 独 監督:Edward Berger

第1次大戦での最も悲惨な独仏の塹壕戦を描いた原作に基づいた作品。映画としては3作目だそうですが、最初のものは1930年製作のアメリカ映画でした。あまりにも有名になった作品で、愚亭も後年、見ています。多分、テレビで。1979年にも米製のリメイクがあったようですが、これはあまり話題にもならなかったようです。

そして、本作はリメイクではなく、原作に基づいてドイツが作った作品ですから、ある意味、最も忠実にエーリッヒ・マリア・レマルクの原作を映像化したと言えるでしょうか。1930年作品にはあの有名な蝶のシーンがありましたが、本作では採用されていません。もしかしたら、あれは原作にはなかったのかも。

第1次大戦は1914-1919初頭と、参戦した国々はまさかそんなにかかるとは誰も思ってなくて、クリスマスには家に帰れるぐらいの軽い気持ちで参戦した兵士がほとんどだったとか。それが戦争史に残るほどの悲惨な戦いになったのは、塹壕戦という、それまでなかった戦い方によるものと言われています。

両軍ともが塹壕にこもり、隙を見て歩兵が敵陣を目指すという単純な戦い方ですから、累々たる死体の山を築くのは当然の流れです。ですから、なかなか決着がつかず、この塹壕戦だけで300万人が犠牲になったということで、いかに無駄なことをやったかの見本のようなものです。

一説には終盤、スペイン風邪(コロナウィルス)が前線でも猛威をふるい、戦争どころではなくなったとも言われています。悲惨な戦いぶりは本作ではカラーでもあり、撮影技術がハンパなく進化していますから、正視に耐えられないシーン続出で、気の弱い人にはぜったいに勧められません。

結局、遊び仲間で、なかば冷やかし半分で応召し、奇跡的に命拾いしかかったのに、最後に再び前線に送られ、主役とも言える兵士たちは全員、まさに悲劇的な死を遂げてしまいますから、後味はすこぶるよろしくありません。映画としては佳作だと思います。演技、撮影、音響、音楽など、どの分野もずばぬけた技を披露しています。

第1次大戦が1919年に終結、ほぼ10年後に自らの体験を基にしてレマルクが小説を発表、さらにその10年後に第2次大戦が始まるという、人間ていうのは、何やってんだろうという暗い気分になりますが、今また、ウルクライナに軍事侵攻しているロシアを考えると、まさしく人類の愚かさ加減には絶望的になります。