211230 応援している江口二美さんが関わってきたこのオペラは、内容からして基本的には学校での公演を主体にしています。ただ、一般客向けの公演もこれまでも何回かあったようではありますが、私にはなかなかチャンスがなく、やっと2021年も押し詰まった30日に観ることができました。
企画・制作のミラマーレの特設サイトで過去の公演記録を見ると、和歌山県からスタートしたのが平成27年で、その後、全国をそれなりに満遍なく巡り、すでに52回の公演を重ねています。コロナ禍で、当初の計画に多少ずれは出ていても、感染状況を見ながら合間にも継続しているのは大変なことでしょう。
今の若い人たちにこうした過去の悲惨な大戦の記憶・記録を受け継いでもらうことはきわめて重要でしょうし、その意味でもこの作品の持つ重みはたっぷりあると感じました。今の大学生にも、アメリカと日本が戦ったことすら知らないという学生が少なくないそうですからね。
この作品では、そういう悲惨さをこそ乗り越えて先に進もうという叫びのような声が聞こえてきます。終幕のところは、あえて明るくしてややミュージカル風になりますが、見終わって爽やかな気分になりました。
ソリスト陣、みなさん、大熱演で、持ち場をよく理解されて歌い演技され、それぞれいい味を出していました。時代を超えて、憎しみを越えて、未来への希望をつなぐてかがみを持っていて、それをアメリカ軍医に託した武田カヨ(江口二美さん)が主人公なのでしょう。カーテンコールでも最後の登場となりました。
合唱団がまた見事な熱演ぶり、まさに体当たり演技で、しかも衣装は血まみれ埃まみれ、髪はほつれ、顔も煤だらけというメイクですから、特に女声陣は見ているのも辛くなるほど痛々しいものでした。
伴奏アンサンブルは、ピアノ、ヴァイオリン、チェロ、フルート(ピッコロ持ち替え)、クラリネット(バスクラ持ち替え)、パーカッション(太鼓とビブラフォン)という編成。今回のような小さなホールでは、ことさら心地よい規模でした。
作曲の池辺晋一郎は、最近大河ドラマや連ドラの作曲をよくやられていますが、オペラにも意欲的に取り組まれていて、「耳なし芳一」や「鹿鳴館」なども手がけています。本作では、耳に残るアリア数曲、二重唱がありました。