ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「時の面影」@Netflix

210203 THE DIG(発掘)2021 英 112分 監督:サイモン・ストーン(英、1985年生まれで、主演のキャリー・マリガンと同い年)ひさしぶりにしっとりとしたヒューマン・ドラマに出会えた。

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実話をベースにした作品。1939年、舞台はロンドンから東北方向へ200kmほどにあるイプスウィッチ市郊外にあるサットン・フー。土地を所有する考古学に詳しいプリティー夫人(キャリー・マリガン)から依頼を受け、発掘調査に行くブラウン(レイフ・ファインズ)が渡し船に自転車と共に川を渡るシーンから。冒頭から風景の撮影の素晴らしさを感じ、これはいい作品に違いないという予感。

塚がいくつも点在し、中は相当古い時代の墳墓があるらしいということで、依頼を受けるが、発掘料をめぐって多少の交渉を経て、正式に請け負うことに。はたせるかな、いきなり期待以上の成果が。それを知った考古学担当の役人がしゃしゃり出てきて、ここは自分たちが仕切るからただの発掘人は引っ込んでろと言わんばかり。これには温厚なプリティー夫人も黙ってはいない。すったもんだの末、ブラウンは正式に発掘に従事することに。

プリティー夫人はブラウンと会って話をして、十分な信頼を置ける人物と見抜いていたあたりが大した慧眼の持ち主。また、ブラウン夫人が夫を諭すシーンがなんどかあるが、これがまた泣ける。決して美人ではないが、立派な見識を持ち主だけに、ブラウンもこのカミさんには頭が上がらないのだ。

途中からいろいろ助っ人が多数登場し、アッと驚くほどの世紀の大発見となるが、プリティー夫人は重い病を発症、未亡人ゆえ、まだ幼い息子に後事を託さざるを得ない。

時代は英国が対独戦争に踏み切るという重苦しい雰囲気の中、とりあえずめぼしいアングロ・サクソン時代の出土品を確保し、一旦埋め戻すことにするのだった。

ラスト近く、「私たちって結局、死んだら朽ち果て消え去るのよね」と弱気を吐くプリティー夫人に、「いや、それは違います。洞窟の壁に残された手の跡のようにずっと私たちは連綿と生きているのですよ」とさりげなく諭すブラウン。本作で一番心に沁みた場面だ。

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マリガンは撮影時はまだ34歳だが、堂々たる貫禄。かなりの老け役だが、持ち前の低い声のせいでもある。一方、ファインズは彼女より23歳も年上だが、実際は5歳彼の方が若いということらしい。でも、違和感はほとんど感じることはなかった。

撮影手法と音楽が素晴らしい。英国独特の郊外の雰囲気がよく捉えられている。何より、キャリー・マリガンの演技力には脱帽。セリフも多くはなく、かなり抑えた演技が作品全体にしっとりした情感を与えることに成功している。

一方のレイフ・ファインズ出世作である「イングリッシュ・ペイシェント」以来、代表作でもある「シンドラーのリスト」ほか、多数の作品を見ているが、歳(と言ってもまだ58)相応に自然体の演技がよい。この作品の舞台となったイプスウィッチの出身というのも何かの因縁だろう。

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シンデレラ」や「ダウントン・アビー」、「戦争と平和」などでもお馴染みのリリー・ジェームズが出演することは知っていたのだがなかなか登場しない。結局、発掘助手のような形でここのプロジェクトに途中参加する役だが、ほぼすっぴんで、大きなメガネをかけていたせいか、しばらく彼女とは気づかなかったほど。演技はともかく、この人はメイク映えが極端にする女優と思った。

間違いなく佳作!