ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「見知らぬ乗客」@Amazon Prime Video

220520 STRANGERS ON A TRAIN 1951年 1時間40分、米、監督はアルフレッド・ヒッチコック。原作はパトリシア・ハイスミス(「太陽がいっぱい」)、脚本にはなんとレイモンド・チャンドラーの名前!ただ、ヒッチと相性が悪く途中で降板したとか。

あの時代にこんな日本語のポスターがあったなんて!

「ワーナー最高大作、近来稀なる会心作!」が、すこぶる大時代的です。なぜか、形容詞のgoodにまでSが付いちゃってます。形容されるmoviesに合わせたんでしょうか。まるでラテン系言語のようで、面白い!

ヒッチのいたずら。Lを入れると”見知らぬ人”が絞殺魔になっちゃいます。

妻と離婚協議のために列車で移動中の主人公ガイ(ファーリー・グレンジャー)がたまたまそばに座ったブルーノ(ロバート・ウォーカー)から馴れ馴れしく話しかけられます。ガイはアマチュアながら、名の知れたテニス・プレイヤーで、妻との離婚協議中であることとか、付き合ってる女性アン(ルース・ローマン)のことまでゴシップ紙に載っていて、ブルーノはその事実を知っていて、突如恐るべき提案をします。いきなり初対面でここまで深入りする展開てあり?とかなり違和感もちますねぇ。

初対面で一緒に飲んだり食べたりしますかねェ。この時点で怪しむべきです。
これはイニシャル入りのガイのライター(1950年でRONSONのライターがあったんですね)を見つめるブルーノ。このライターがのちのち重要な役割を果たすことになります。

最初はとうぜん取り合わないのですが、ブルーノの執拗さに辟易しながら別れます。

ガイが下車するときに乗り込むコントラバスを抱えた乗客がヒッチです。

テニスラケットと鞄を持ったガイがヒッチと目を合わせていますね。この場面だけはヒッチの娘(バーバラ役のパトリシア・ヒッチコック)が監督したとか。彼女、昨年亡くなり、これで本作の関係者はすべて故人となった由。

その後、なんとブルーノは提案通り、ガイの妻を遊園地の中で絞殺します。

絞殺される瞬間のミリアムが下に落ちたメガネに映り込みます。
ヒッチはこの場面のために特大のメガネを作らせたようです。

ブルーノがガイに出していた交換条件は日頃折り合いの悪いブルーノの父親の殺害で、そんなことは引き受けられないとガイは断固拒否するのですが、家の図面やら殺害に使うピストルまで送りつけられ、進退極まります。さ、どうなるんでしょうか。

愚亭の姉が大好きだったルース・ローマン。別段、どうというほどの女優ではありません。撮影中、ファーリー・グレンジャーは彼女にずいぶん嫌がらせをしたようですし、ヒッチも彼女が気に入らず、別の女優を使いたがったのですが、ワーナー側が契約中の女優だからという理由で彼女を”押しつけた”らしいです。そういう裏話があると、ちょっと彼女がかわいそうではあります。

アンの妹バーバラを演じたヒッチの娘、パトリシア。存在感ほぼなし。

ラストのメリーゴーラウンドのシーンは圧巻でした。ワンカットで取り切ったとか。今ならCGで簡単に撮影できるのでしょうが。実際にメリーゴーラウンドを作らせ、高速回転させて撮影。迫力満点、ヒッチの面目躍如ってな終わり方でした。

ところで、ロバート・ウォーカーですが、本作のクランクアップの8ヶ月後に急死します。アル中気味で、その治療薬の副作用が死因だったとか。32歳の若死にでした。ジェニファー・ジョーンズと学生時代に知り合い、幸せいっぱいでしたが、プロデューサーのデビッド・セルズニックからジェニファーを奪われた格好で、気の毒でした。

もう一つ。原作のハイスミス、当初は本作の出来栄えに好意をしめしていたらしいですが、その後、原作を何箇所も変更したこと、例えば、ガイの職業を建築家からテニスプレイヤーにしたり、最後のシーンも大幅に作り替えてたことに相当不満を鳴らしたとか。キャスティングも気に入らなかったようです。ヒッチはガイにはウィリアム・ホールデンを想定していたのですが、やはりワーナー側の主張でグレンジャーに変更されたそうで、ま、それにしても裏話満載の作品です。