ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「レッド・スパロー」

180330 THE RED SPARROW 米 140分 監督:フランシス・ローレンス

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怪我で夢破れたボリショイバレーのプリンシパル、ドミニカ・エゴロワ(ジェニファー・ローレンス)が、病気の母親との暮らしを続けるために選んだ道は、ワーニャ叔父(マティアス・スーナルツ)が勧めるスパイしかなく、色仕掛けコースも含まれるスパイ養成学校を経て、二重スパイを探り出すという超ハードな任務を与えれるという話。

舞台はロシアのどっか、ブダペスト、ロンドンと移動していく。撮影は、ほとんどがハンガリー、一部スロバキアで行なった様子。

冷戦時代という設定だが、撮影はすべて現代というチグハグな扱い。ロンドン空港など、最近のターミナルが映されていながら、アナウンスでは、とっくになくなっているBEAのフライトが流れたり、いささか滑稽なアナログ感が拭えない。

それより、今時フロッピーディスクを使ってるシーンにびっくり。それだったら、もう10年以上も前の設定になってしまうし。もう少しこうした細部も精度を高めないと、リアリティーが薄まるだけ。

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よくあるスパイの話で、とりわけ驚くような展開はないが、179cmと長身のローレンスのダンスシーン(肝心なところは代役が演じるが、一部は特訓で本人が踊ってもいる。代役のスタイルが一目でローレンスとは異なるのが惜しい)や、シャーリーズ・セロンばりのアクション・シーン、過激な官能シーンなど、見せ場多し。

拷問シーンは、あまりに生々しく、正視に耐えない。従って、本作は女性向きではない。人間の皮を剥ぐシーンなど、あそこまで見せる必要があるのか。

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イギリスの名優、シャーロット・ランプリングがスパイ養成所の冷酷な教官役で登場、この方、いつも品のいい役が多いのだが、こういうのをやらせると、限りなく恐ろしい表情になるのは新たな発見。

まあまあ期待通りの出来栄え。ジェニファー・ローレンスの独り舞台。この女優がお好きでない人にはあまり勧められない。彼女のロシア訛りの英語も、なかなかよかった。

#25 画像はIMDbから。

「去年の冬、きみと別れ」

180326 監督:瀧本智行 原作

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久しぶりの邦画鑑賞。原作未読だが、映画としてなかなかよくできていて、展開もテンポよく、見せ場もうまく配分されていて、飽きる場面はなかった。

こういう作品なら、邦画もこれからもっと鑑賞したいと思う。出演者では、北村一輝や斎藤 工はいいとして、ほかの連中は特徴のない顔で覚えられない。最近、韓国は典型だが、日本でも没個性の顔が男女ともに増えた。

#23 

「ロッシーニとその時代」@東京文化会館小ホール

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ロッシーニのマラソンコンサート。午前11時から夜の8時半までだから、5部全部出演する合唱の歌手たちには、実にハードな一日だったはず!

愚亭が聞いたのは午後7時からの最後の5部のみ。ちなみに、5部にも出演予定だった天羽明恵は、2部までで体調を崩され、代役に。その熊田祥子鵜木絵里とも、急遽登場とは思えないほど卓抜した技量を発揮して大喝采を浴びた。本来出演予定の歌手を楽しみにしていた反面、こういう嬉しい驚きもあるから、こうした”事故”もプラス思考で捉えればどうということはない。

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企画構成と当日の解説をされた小宮正安の話が面白かった。語り口も工夫されていて、すんなり頭に入った。それによると、上にもちょっと触れているけどスターバト・マーテル、いくら親しい友人と言え、私的な演奏と楽譜の門外不出を条件にして作曲するって、凄い話だ。

ところが腰痛など体調不良で、ジョヴァンニ・タドリーニに補筆させて完成。5年後、今度は、当の委嘱した人物が亡くなると相続人がそのあたりの事情不案内で、楽譜を売りに出したから、サァ大変!怒ったロッシーニは、楽譜を買い戻して、補筆部分を全部自分で作り直し(そのために1曲減ったが)世に出したというから、大した執念!ロッシーニの人となりの一部を垣間見る思い。

ユグノー教徒」を歌った代役の熊田祥子、初めて(多分)聞いたが、伸びのあるきれいな高音が持ち味らしい素晴らしいソプラノで、大満足。

「猫の二重唱」で登場したこれまた代役の鵜木絵里、つい先日、「フィガロ」で聞いたばかりだが、こうしたコミカルな役こそ彼女にうってつけで、登場するなり、もう笑いがこみ上げるほど、所作の一つ一つが楽しく面白い。もちろん歌唱も断然余裕。

次の「楽しい汽車の小旅行」というナレーション入りの演目がまた遊び心たっぷりで、さらに岡田 将の演奏ぶりも素晴らしかった。出発進行から、途中事故まであったりして、やっと次の駅で停車するまでの情景描写の巧みなこと!

「踊り」を歌った小堀勇介って、確かどっかで聞いたことあるけど、思い出せない。ともあれ、メリハリの聞いた歌唱はインパクト、おおあり。将来、楽しみなテノール

最後の演目「小荘厳ミサ」、実はこれが一番楽しみで今宵のチケットを買った次第。2年前の日声協主催「海の日のチャリティーコンサート」の合唱団の一人として歌ったのがこの曲。全曲ではなかったが、いいとこ取りで、楽しく歌ったのを鮮明に思い出す。

今日は小編成ながら、全員一流の歌手たちばかりだから、聞き応えたっぷり。ソロの押見朋子の凄さ加減にも参った。合唱団員、全員存じ上げている方々ばかりというのも嬉しかった。

#20 文中敬称略

 

リメイク版「椿姫」@きゅりあん小ホール

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スターファームの第2回公演。応援している青栁・江口夫妻がオペラ界での将来、逸材になる可能性を秘めた若手を育成しているプログラムなので、前回(「カルメン」)に続いて、観て来た。

リメイク版というのが正しい表現かどうか分からないが、要は通常上演される「椿姫」に、下に演出の三浦アンコウが詳述しているように、プッチーニの「つばめ」を巧みに絡ませた構成になっている点に大いに興味を惹かれる。

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やや体系的にも類似していて、さらに同じようなコスチュームを着用して女声陣が入り乱れて登場するから、よほどきちんと解説を読み、しっかり舞台に集中しないと話がこんがること、必定。まぁそれにしても、着目点が実にユニークである。

また登場する新人たちも、前回に比べて明らかな成長ぶりが伺え、育成側の努力の跡が偲ばれるし、今後がますます楽しみである。それにしても、助演陣が豪華なこと!

バックで似たような仕草をする場面でも、やはり助演はまったく違う演技で、これは当然だが、一目で違いが分かる。さすがである。

日本語歌唱(一部イタリア語)で、セリフは日本語であるから、筋を追うのは楽であるが、歌唱のうち、有名なアリア、あるいは重唱はイタリア語、ややマイナーなところは日本語にしてある。どういう線引きをしたのだろう。日本語と原語が入り混じるのはいずれにしても歌手泣かせだる。

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左端は指揮者、柴田真郁。

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主役陣

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メイクは落とさず、衣装だけ着替えて、ロビーに出てこられた青栁・江口夫妻。数時間後、夜の部に再登場予定、しかも昼とは別の役も演じるというから、そこは素人には信じられない世界だ。

 

#20 文中敬称略