140913 新国立劇場オペラパレス
久々に本格オペラ、それも初めて観る作品。モーツァルト24歳で作曲したオペラ・セーリア。但し、いわゆる五大オペラの枠外で、上演される機会は割に少ない。時代は紀元前の地中海で覇権を争っていたギリシャ(クレタ)とトロイの話。だが、ダミアーノ・ミキエレット演出は、ほぼ現代に置き換えている。ま、時代を超えたテーマ(親子や男女間の愛憎、戦いと平和など)ゆえ、特にこうした現代置き換え演出でも違和感はない。
ただ、前方にゆるやかに傾斜した舞台一面に累々と横たわる靴(戦いで散った亡がらということらしい)という、意表をついた舞台には、少々驚かされる。コスチュームも、背広、ネクタイなど、ごく普通の格好で、衣装係はこの演出で、随分楽だったろうな、などとつい余計なことをつい考えてしまった。
初演(モーツァルト25歳の誕生日の翌日だったとか)は、散々だったらしい。やはり、こう言っちゃなんだが、五大オペラに比べると、どうしても見(聴き)劣りがしてしまう。と言うか、題材が馴染みにくいと同時に、曲の方も、「さすがモーツァルト!」という感じがするものがそれほど多くないから、それも無理もないかなと感じてしまった。
でも、準・メルクルに率いられた東京交響楽団、要所要所で「これぞ!」と分かるモーツァルトらしい美しい旋律を紡いでいく。
第3幕で、"S'io non moro・・・"で始まる、イダマンテ(ここではメッゾ)とイリア(ソプラノ)の二重唱は殊の外美しかったし、最後に出て来る"D'Oreste・・・"は、長大なエレットラ(ドラマチック・ソプラノ)のアリア、これは凄まじくて、正直参った。
拍手を入れるタイミングが難しく、最後まで戸惑っていた聴衆も、このアリアでの演出が凄かったこともあり、唯一大喝采が鳴り響いた。確かに、これを歌った田崎尚美は、カツラを脱ぎ捨て、深紅のコスチュームをはぎ取り、スリップ一枚になって、砂を敷き詰めた舞台を転がり回り、あまつさえ泥濘を身体にこすりつけた挙げ句、バッタリ息絶えて、幕が降りるまでうつ伏せのままの格好だから、本当に大変だったと思う。
タイトルロールの又吉秀樹は、かなり前から注目していたテノールだが、まったく期待を裏切られることなく、見事に演じ切っていた。イドメネオの息子、イダマンテは作曲当時は、カストラートが演じたことが多かったらしいが、その後は一般的にはテノールだそうだ。この公演では、メッゾの小林由佳が好演。端正でボーイッシュな顔立ちはこの役によく合った。イリアの経塚果林は、初めて聴いたが、透明感の漂う美しい響きと可憐な表情が持ち味のソプラノ。注目したい。
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