160223 原題もUNBROKEN 米 137分 製作・監督:アンジェリーナ・ジョリー
不意に鉄拳が飛び、くらくらしながら立ち上がると、今度は竹刀でしたたかに打たれる。それも一度や二度ではない。際限なくだ。自分がなぜこんな仕打ちを受けねばならないのか。ひと月以上も太平洋を漂流した果てにやっと救われた命が、今度は陸上でさらなる危機に晒される。終戦前の大森捕虜収容所(正式には東京俘虜収容所)。
これは太平洋戦争中に起きた実話。中距離ランナーとして東京オリンピック(1940)出場の夢を叶えようとしていたルイス・ザンペリーニは搭乗していた爆撃機もろとも太平洋上に落下。運良く浮上し、2名の仲間と救命ボートで救助を待つことに。敵機から機銃掃射を受けたり、サメに狙われたり、嵐に遭ったり、散々な目に遭いながらも、敵艦に救われる。
しかし、その先に待っていた運命は、ある意味で漂流よりはるかに過酷なものだった。それはサディスティックな所長、渡邊睦裕伍長(後に軍曹)に目をつけられてしまったからである。
とりわけ反抗的でもないルイスがなぜ渡邊の餌食になったのか、客観的には不明で、それは渡辺にしか分からない。それにしても、執拗に打擲を繰り返すこの伍長は、日本側も含め、誰の目にも性格異常者としか映らなかっただろう。(映画が真実を語っているとすればだが)
ちなみに、戦後のインタビューで、自分の振る舞いについて問われた渡邊は、敵兵に対しては、時に暴力を振るうこともあったとしか答えていない。単にルイスがたまたま気に食わないヤツだっただけかも知れない。≈
参考までに、渡邊について、ウィキペディアにはこんな記述があり、ある程度、映画の内容を裏付けているようにも見える。
主役のルイスを演じたジャック・オコンネル(「ベルファスト71」)より、渡辺を演じたMIYAVIの方がはるかに強烈なインパクトを残す。このキャスティングは見事としか言いようがない。
我が家からも遠くない大森のどこにこんな収容所があるかと調べたら、現在の平和島の北西の一角にあったらしい。
それにしても、東京の空襲が激しくなり、捕虜たちも一様に終戦が近いことを知って、それが励みになる一方で、そうなれば、自分たちはその前に処刑されるだろうと怯えていた捕虜も少なくなかったようだ。彼らはその後、直江津に移送され、石炭を貨車に積み替える作業に従事し、全身真っ黒になりながら、そこで終戦を迎える。
アンジェリーナ・ジョリーは、「最愛の大地」(2011)が初メガホンだが、これもボスニア・ヘルツェゴヴィナを舞台にした戦争映画。実に男っぽいのだ。
日本人をことさら残虐に描いたとして、当初日本公開がかなり危ぶまれたらしい。確かに、後半はずーっとサド渡辺の非道ぶりに付き合わされるので、いささかうんざりもするが、映画の出来は素晴らしい。東京でも一館でしか上映されないのは、まことにもったいない。
それにつけても、MIYAVIの表現力の豊かさよ!この人は、本来サッカー選手として、かなりの有望株だったとか。骨折さえしてなければ、今頃、セレソ大阪で戦っていたはず。骨折して、よかったよ。
#14 画像はALLCINEMA on lineから