ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「カプレーティとモンテッキ」@箪笥町ホール by ミャゴラトーリ

160806 今年も巡ってきました、ミャゴラトーリ劇団の季節が。それほど楽しみにしていた上演です。(でも、まだ3度目、あまり偉そうなことは言えないけど)何が楽しみかって、そりゃ言わずと知れた岩田演出 X 真郁指揮が醸し出す、えも言われぬ不思議な空間を、歌手たちと一体になって楽しめることなんですねぇ。この充足感は、体験した人でないと理解不能。

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⬆︎⬇︎ついでだが、このポスター、よくできている。確か前回もそうだったが、ミャゴラトーリのセンスの良さが光る。

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それに、毎回(愚亭は3度目だけど)、出演者が、また粒ぞろいときているから、堪えられない。やはり評判が評判を呼んで、ここに出たいと思う歌手が今後増えそうだ。昨年もそうだったが、AB両組とも甲乙つけがたく、今回つくづく思ったが、悩んだ時は両方行くべし。(資金枯渇につながりそう)悩んだ挙句、今回は6日の公演を選んだ。

この演目、日本での上演機会は比較的少ないと思う。多分、愚亭も今回が初めてのはず。作曲したヴィンチェンツォ・ベッリーニは、ロッシーニより9年、ドニゼッティより4年遅れて、1801年にカターニアに生まれた。これら先輩作曲家の影響は受けてないはずはなく、曲想に類似点があるのは当然だろう。わずか33歳で夭折してしまったのに、オペラを10本も、それも優れた作品を多く残してくれたものだ。中では、ノルマ清教徒(I PURITANI), 夢遊病の女(LA SONNAMBULA), そして本作が上演回数が多い方だろうか。

登場人物はロメオとジュリエッタのほかでは、ジュリエッタの許嫁テバルド(テノール)、ジュリエッタの父親、カペッリオ(バリトン)、カペッリオの友人で医者のロレンツォ(バリトン)の5人。興味をそそられるのは、ベッリーニがロメオ役にメゾソプラノを指定していることだ。そう言えば、ロッシーニタンクレーディも、男役だが、メゾソプラノにやらせている。他にも同様な事例は少なくなさそうだ。これは、声の絡み具合で重唱の場合は同性の方が響きがいいとか、そんな理由だろうか。

今回は初日はテノール、2日目はオリジナルの通りメゾソプラノが演じた。こういうことがあるから、やはり両方見ないとダメなのですね。ロメオ役の森山京さん、大熱演で、さぞ疲労困憊だったことでしょう。舞台に仰向けに寝そべったままアリアを歌わされたり、何せ男役だから、終始激しいアクションが入り、それでも息をしっかりコントロールされていたのは、さすがベテランと痛く感心した次第。

ジュリエッタの平野雅世さん、初めて聴かせてもらったと思う。大阪音大ご出身だから関西ベースで活躍されていたせいだろう。でも、今は藤原歌劇団所属だから、東京ベースなのかも。超高音をピアニッシモで響かせる技はそれだけでも大したもの。敢えて注文をつけさせてもらえるとすれば、やはりオペラは総合芸術だけに、ジュリエッタとしての儚さとか、オーラとかをもっと感じさせてくれてもよかったのかも知れない。(難しいと思うけどね)

日頃応援している青栁素晴さん、腰痛をおして強行出場した杉並メリーからたったの2週間でしっかり体調を整えてのテバルドへの挑戦、見事でした。メリーの時もそうだったけど、登場するや、いきなりちょっと長めの高いカヴァティーナ「復讐を果たすのはこの剣」を朗々と披露して、喝采を浴びていた。ま、この人ぐらいのレベルになると安心して聞いていられるのが心地よい。

上演回数が少ない分、耳馴染みのメロディーもあまりないのだが、ジュリエッタが第1幕2場で歌う「幾度となく!Oh, Quante Volteは、いかにもこれぞベッリーニという情感に満ちた美しい調べで、本作で最も強く印象に残った。

ところで、ミャゴラトーリの舞台は、実際の正面舞台の他に、客席(平土間)前方も舞台に使われるので、平土間両サイドにも2列ずつ客席が用意されている。つまり三方に客がいるということになる。またスロープ状になっている正面客席上部空間や、両方にある通路も舞台の一部として使われるのが特徴。よって正面席の客は劇中人物になっている錯覚を覚えさせられるのだ。

冒頭、漆黒の闇から顔面白塗りの黒ずくめの男が、弱々しいふらつく足取りで登場、ゆっくりと平土間へ移動。と思った瞬間、手を振り下ろすと伴奏ピアノが鳴り始める。これは毎回のことだから驚かないが、白塗りは初めて。あとで続々と登場する死人、あるいは霊と一体化しているということかな。

正面席上段から、これまた黒ずくめの男たちが降りてきて歌い始める。全員サングラスで、ヤクザかマフィア集団かと恐れをなすほど。それにしても、よくもまあこんな悪そうな面構えの歌手ばかり探してきたものと感心するやら呆れるやら。

という風に始まるのだが、指揮の柴田真郁氏は、舞台の中であちこち随時移動しながらだから、歌手の立ち位置など、細かく頭に入っているのだろう。歌い手からも、ピアニストからも常に見えるところに移動していく。それも暗がりで。

かくして、両家ともに死人の山を築いて、主役の二人もご存知、暗い墓の中で、折り重なって息絶えてエンディング。ア〜〜面白かった。すぐ来年の演目が気になったほど。

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テバルドの青栁素晴さん。顔と手にはべっとりと血糊が。ホントにお疲れ様でした。毎度のことながら、この後の飲み会で、今回の公演の苦労話など、いろいろ興味深いお話を伺った。

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