ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「ネルーダ 大いなる愛の逃亡者」

171214 原題:NERUDA  チリ/アルゼンチン/フランス/スペイン 108分 監督:パブロ・ラライン(41歳、チリ人、「ジャッキー/ファーストレディー最後の使命」2016を撮っている。)

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ネルーダという名前は、チリの国民的詩人ということぐらいしか知らない。そして、クランクアップと同時に亡くなったイタリアの監督・脚本家・俳優だったマッシモ・トロイージの遺作「イル・ポスティーノ」に登場するのが、このチリの亡命詩人だったということぐらい。(この時は、フランス人のフィリップ・ノワレネルーダを演じた)

それはさておき、本作は1948年、チリで共産党が非合法化され、一転追われる身になった憂国の詩人(44歳)の逃亡劇である。それにしても、この邦題の大仰さはいかがかと首を傾げてしまう。確かに「ネルーダ」だけでは、観客動員はもっと難しいだろうけど。ちなみにこの名前、チェコの詩人からつけたそうだが、そのうちに本名にしてしまったというから、面白い。

見どころには、彼を追う刑事との駆け引きも含まれる。いわく因縁のある育ちの刑事、今は出世しているが、自分でも卑しい出自は十分自覚して行動している。演じるのは、久々に日本公開映画に登場の、メキシコ出身ガエル・ガルシア=ベルナル。端正な顔から発する色気が人気を保っている所以か。

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ネルーダという大の女好き男、太っている点も、メキシコの画家、ディエゴ・リベラによく似ている。誰もが認める豪快、かつ繊細な詩作で、あれよという間に国民的英雄になるのだが、もともとは政治活動に熱心で、バリバリの共産党員。尤も、若い頃30歳にしてスペインで外交官デビューしたというから、才能豊かな人物であったのは間違いないのだろう。

映画の冒頭、なにやら立派な内装を施した天井の高い豪壮な建物の中に入ると、そこは政界サロンのような雰囲気で、政治論議が盛んに行われている、と思っていると、なんとそこは紳士用トイレであり、やがてネルーダは壁側に近づき、小用を足し、反対側の壁面にある洗面台で手を洗うという、意表を突く展開。

元々は連立政権で同志であったのに、時のビデラ政権が親米路線を取ったことで、共産党と対立、その頃の激しいやりとりが冒頭のシーンというわけだ。

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本物の方は、こちら⬇︎

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バスク系チリ人ということで、いつもこのようなバスク帽を被っている。

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支持者の元をあちこち転々としながらも、つかみどころのないこの男、ぬらりくらりと当局の目をかわし、その間も熱烈な支持者で愛人のデリアと常に行動を共にする。しかし、いよいよ危険が迫り、国外脱出を決意、湖を超え、山岳地帯を抜け、脱出に成功。彼を執拗に追い続けた刑事、ペルショノーとの間に、いつしか敵味方の感情を突き抜けた別の意識が双方に芽生える。そして、雪原での別れの時が。

その後、画面は一転、パリでの記者会見の席に移る。彼の逃亡に手を貸したのは同じパブロのピカソだったとは。(この後、例のナポリ湾沖の小島、プローチダ島に移り住むことに)

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⬆︎このシーン、初期の作品「モーターサイクル・ダイアリーズ」を彷彿とさせる。調べると、この作品も含め、ベルナルはゲバラ役を何度も演じていることがわかった。

#86 画像はIMDb、およびALLCINEMA on lineから。