201006
ネットフリックスにしてはむしろ珍しい1話もの。111分。監督:レナート・デ・マリーア 主演は、「昼下がり、ローマの恋」に続いてリッカルド・スカマルチョ!今、イタリア映画界きっての旬な男優の一人であることは間違いない。いわゆる美男俳優ではなく、ひょうきんながらも、ちょっとクセがあり、影のあるスターという立ち位置だろう。
冒頭は、ミラノの大聖堂を間近に、しかも水平に見る豪邸のテラスで、なにやらえらそうに新聞に目を通すガウン姿の主人公。大聖堂トップ、金色に輝くマリア像に朝日が反射して、にんまりするサント(聖人とは、笑わせる名前、もちろん俗称だが)。
実は、サントはカラッブリア(長靴の土踏まず辺り)の寒村、プラティ(Platì)出身で、夜行列車に揺られ、羊飼からレンガ職人になったわけあり父親と家族ともども夜逃げ同然でミラノへ上京。ここら辺は、まるでアラン・ドロン主演の「若者のすべて」を彷彿とさせる滑り出し。
やがて悪事に手を出し、この男、本領を発揮、まあある種の才能の開花なんだろう、あっという間に闇の世界でのし上がっていく。ワルガキ丸出しで、金儲け、恐喝、殺人、女好きというわけで、純真だったロッコ(アラン・ドロン)とは、そこからは大違い。
途中から登場するフランス人アナベル(マリー=アンジュ・カスタ)と浮気するが、高級レストランで、彼女がワインを選定することになり、Ça va sans dire(言わずもがなだけど)とソムリエに。んで、サントにソムリエが、「それで、どれになさいます?」と。
彼女がてっきり自分の知らない高級ワインの銘柄を告げたと思い込んでるから、ややむっとして、ソムリエに「?!」。重ねて聞かれ、彼女が助け舟。「バローロ、72年!」。笑える一場面。
無学というより、単にフランス語を知らなかっただけなのだが、以来、ナントカの一つ覚えで、何かというと、サ・ヴァ・サンディールと言って、敵も味方も煙に巻く、ちょっとチャーミングなサントの姿が印象的。
邦題に「〜・・・転落人生〜」とあるものの、最後はそれほどの転落でもない。ちゃっかりと自分のいた組織を一網打尽にさせる引き換えに司法取引で自由をかちとるわけだから。それにししてもこの邦題はひどすぎる。
正確にはマフィアはシチリアが本拠地だから、カラッブリアではマフィアとは呼ばない。ンドランゲタという、キテレツな呼び名がある。ちなみにナポリが根城の組織はカモッラである。サントが生まれたプラティは人口がどんどん減って、今や3,500人ぐらい。産業らしきものはなにもなし。いわゆる限界集落になるのは時間の問題だろう。
マフィアにしても、カモッラにしても、この訳のわからない名前の組織にしろ、いずれも山奥の寒村が出身舞台となっている共通点が面白い。そう言えば、「ゴッドファーザー」もシチリアのコルレオーネ村という、かろうじて地図に名前が見えるような村だった。
画像はIMDbから。