ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「永い言い訳」

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見終わって、これは是枝裕和監督作品かと思いました。そうであってもまったく違和感がない。ま、しかし、それは原作・脚本・監督をこなした西川美和監督には失礼にあたるでしょうね、間違いなく。

小説家の幸夫(本木雅弘)と美容師の妻、夏子(深津絵里)、二人の間にはすでに寒々とした空気が流れています。夏子はこれから親友である大宮ゆきと夜行バスでスキーに出かける直前に、いつものように夫の髪にハサミを入れています。会話がまったく噛み合いません。「これで、完璧!」と告げ、仕上がりに不満そうな夫を残して風のように出ていきます。

さっき受信したスマホのメッセージを幸夫が確認しようとした途端、夏子が早足で戻ります。慌ててスマホから手を離す夫、「悪いけど、後片付け、お願いね!」。置いたばかりのスマホのストラップがゆれているのに気づいたかどうか、この会話が二人にとって最後のものとなります。

夜行バスの事故、その時、夫は一体なにをしていたのか。後々、幸夫を苦しめ続けます。そんな中、同じく遺族となった大宮一家と不自然なほどにまで絆を深めて行く幸夫、まるでそれが贖罪であるかのように映ります。父親(ゆきの夫)が長距離トラック運転手で不在がちな中、父親代わりとなって幼い二人の子供の世話を焼きます。それが妻の死を受け入れたくない現れなのか、自らの不倫を振り払おうとしているのか。

夏子の遺品のスマホを何気なく開き、そこに驚きの自分宛で未送信のメッセージを見つけます。「あなたなんか愛していない。これっぽっちも!」混乱する幸夫、同時にこみあげる怒りでスマホを床に叩きつけます。どうにも身の置き所のない幸夫、「ゆらぎ」が幾重にも心を支配して行くのです。あれ以来、髪は伸び放題、でもついに夏子のかつての同僚のところで、ハサミを入れてもらいます。これで踏ん切りがつくのでしょうかね。

この映画、主演はモックンただひとり。他はすべて脇役です。夏子も冒頭だけ、不倫相手となる女(黒木 華)もわずか2カットという”贅沢”さ。個人的には黒木 華をこんな役に使って欲しくなかったな(笑)。

バックを流れるストリングスが巧みに心理描写をしていた印象です。紛れもなく佳作!このタイトル、「長い」でなく「永い」としてあるところがいかにも意味ありげです。