ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

I CAPULETI E I MONTECCHI@日生劇場

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かなり早めにチケット入手していたので、最前列で見ました。いやあ、参りました!この演目、あまり上演機会が多くないのですが、5年前に箪笥町のホールで初めて見ました。その時はこぶりの団体の上演で、それでも十分楽しめたのですが、今回のものは本格的なプロダクション。これぞベッリーニ!てな感じで、叙情的な名アリアが詰まったオペラであり、彼の真髄に触れたような気になりました。

主役はもちろん二人なんですが、他に脇役が3人(尤もテバルドは準主役かな)、ソリストは計5人だけ。あとは合唱隊、それも登場するのは男性のみで、女声は事前収録したものを流したようでした。

ソリスト陣、豪華でした。とりわけ主役の二人の演唱にはぶっ飛びました。佐藤美枝子さん、もちろん実力の程はかねてよりよく存じ上げていますが、あらためてその技術力の高さには敬服した次第。

しかし、なにより驚いたのはロメーオを演じた山下裕賀さん。つい数ヶ月前にOTA OPERA PROJECTでご一緒したソリストなので、巧さはしっかり体感済みなのですが、今回の舞台での山下さんは、その時の何十倍も卓抜した歌唱と演技でした。

多分、ジュリエッタより多く歌ったはずで、ほぼ出ずっぱりの印象でした。男性の役どころを女性に歌わせるのはロッシーニも「タンクレーディ」でやってますが、主役二人のハーモニーをよりいっそう高めようとする狙いなんでしょうか。それは聞いていてよくわかりました。

テバルドを演じた工藤和真さん、2年前の東京音楽コンクールで金賞と聴衆賞を獲得した時はたまたま会場にいて、よく覚えています。歌もそうでしたが、歌う姿勢がどこか日本人離れしていて、とても自然な身体の動きがとりわけ印象に残っていました。その年、さっそく日生オペラで「トスカ」のスカルピア役を射止め、見に行きましたが、トスカを演じたのがベテランの砂川涼子さんでもあり、新人としては圧倒されたようで、ぎこちない演技だったように見えました。

しかし、今日の舞台では、さすがに上達ぶりが際立ちました。最高音が確か5回ぐらいはあったのですが、これをきれいにクリアして、進化ぶりをまざまざと見せつけられました。多分、まだ30前かなったばかりぐらいでしょうか、今後、大いに期待されるテノールでしょう。

私が好きなバリトン須藤慎吾さん、そしてバスの狩野賢一さん、今回もたっぷり堪能いたしました。

ストーリーは我々がよく知るシェイクスピアのものと大同小異で、それは元々の話がルイージ・ダ・ポルト(1480-1562、ミケランジェロとほぼ同世代人)という貴族が、ダンテ・アリギエーリ(1265-1321)の神曲にある話に想を得て描いたというから驚きます。

これを更に後世のシェイクスピア(1564-1616)が「ロミオとジュリエット」という戯曲として1595年に発表したものが、その後、広く世界中で知れ渡るようになったということですから、ストーリー展開がほぼ同じなのは当然のことでしょう。

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幕が開くと、この豪華なセットにアッと驚きます。実に質の高いもので、これがしばらくするとゆっくりと開いていきます。動かしているのは人間でした。ちょうど剣の真ん中あたりで左右にゆっくり開きます。今回の公演のテーマが”分断”ということで、それを象徴的に表した舞台装置のように思いました。手前にいる兵士たち、ヘルメットこそ現代風のものですが、コスチュームは時代を感じさせる華麗で重厚なものでした。

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第1幕第2場、なだらかな丘陵のようなところで、ひとり心情を吐露するジュリエッタ、そこへロメーオが登場する場面、ここも見事なセットです。

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このロメーオのかっこいいこと!

メイク、ヘアセット、コスチュームなど、決まってました。加えて、山下さんの脚の運び、身のこなし、戦闘シーンでの身体の使い方など、どれも見事としか言いようがありません。

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しかも二刀流ですからねぇ。このシーンは左手で短い方の剣を抜いてテバルドに迫る場面。殺陣としても実に堂々としていました。

コロナ禍で練習するのも大変だったはずなのに、ここまで身体を張った稽古を積み重ねていたとは頭が下がります。

大活躍の合唱団、C.ヴィレッジ・シンガーズ、全員、ほぼ黒装束ですが、いちぶ真っ赤なショール風のものを巻き付けてアクセントになっていました。マスク姿で歌っているのが気の毒でした。女性合唱は声だけで、姿はありませんでした。

上演機会の少くないこうした作品が見られて、ラッキーでした。オペラって、お手軽なのもいいし、現代風の解釈による新演出や舞台装置もあるでしょうけど、やはり今回のようにできるだけオリジナルの雰囲気を出してくれるプロダクションが落ち着きますね。

(画像は日生劇場公式HPからお借りしたものです)