210829
「コロナさえなければ!」というフレーズ、世界中で繰り返し使われたでしょうね。もっとずーっと重い意味合いで。ということは、たかが音楽会開催ぐらいのことで、このフレーズを使用するのはいささか気が引けます。ともあれ、本来は昨年の9月開催予定だったこのプログラム、五輪並に1年延期で、しかも緊急事態宣言中の開催となりました。
練習は4月初旬から全部で20回近く、ただ練習会場退去時間が1時間繰り上がったため、全体の練習量は減らさざるを得ず、本番近くになり、補講も何回か追加されましたが、結局、当初予定されていた全曲暗譜を断念し、前半のイタリアものに限り暗唱とバーが下がりました。個人的にはちょっと残念に思っています。仏独伊3ヶ国語というハードルは初心者には厳しかったのは事実でしたが。
大田区文化振興協会主催のこのTOKYO OTA OPERA PROJECTは、当初計画だと、昨年2月に「こうもり」2幕からの短縮版(これはコロナ禍直前に開催)、「はじめのいっぽ」という副題で、合唱だけでなく、結構ハードなフリも入れての上演でした。そして第2弾がこれで、第3弾が2021年秋、つまり今年、「こうもり」全曲、フルオケ付きの上演という3年計画でした。
残念ながら、今のところ、全曲上演の日程が立てられなくなったようです。というのは、会場に予定されているアプリコ大ホールが2022年1月から14ヶ月かけて改装することが決まっているのです。練習期間を考慮すれば、早くても2023年秋以降、コロナ禍次第では、さらにずれるかも知れません。全曲版の舞台に乗ることを考えていましたが、自分の年齢を考えればその可能性はかなり低くなりました。
超有名なオペラ・オペレッタ オンパレードです。比較的演奏されることが少ないとすれば「タンクレーディ」ぐらいでしょうか。今回の出演陣で異彩を放っていたのがカウンター・テナーという稀な声部を受け持つ村松稔之さん。「タンクレーディ」からのアリアはまさに村松さんのために挿入されたものでしょう。
また、比較的馴染みの薄い曲は、「リゴレット」3幕からの四重唱で、上の解説にあるように、各人それぞれの思いを覚悟をもって歌う緊迫した場面です。解説文を読み、さらに字幕も追いながらの鑑賞になります。4人の歌唱技量が揃わないと成立しない重唱だと思いますので、今回の顔ぶれは十分すぎるほどこの条件を満たしていると思います。
ソリスト全員が歌い継ぐ楽曲は前半の「椿姫」からの「乾杯の歌」と、最後の「こうもり」からの「シャンパンの歌」、まあどちらも定番中の定番なので、プロの歌手ならいきなりでもすぐに歌えてしまうようです。
今回は通常の4声に加えてカウンターテナーが入るので、誰がどこで入ってくるか、そういうところも楽しめたのではないでしょうか。カウンター・テナーは普通メゾ・ソプラノの声の高さだと思うのですが、村松さんから山下さんにバトンタッチされると声の質の違いが明確に分かって興味深かったです。
本番の前々日はオケ合わせで、全員勢揃いとなります。そこで、発表されたのがテノールの望月哲也さんの降板でした。一度、ソリストとの合わせで、登場されていただけに、本当に残念でした。独特のソフトで甘い発声、昨年2月の「こうもり」短縮版でもご一緒しているので、よく知っている方です。
代役で急遽登場したのが端正な高音と美貌でメキメキ売出し中の城宏憲さん、緊急登板で大変だったと思います。本番に備えてオケ合わせ、ゲネでも最高音は封印していました。その辺りをよく知らない合唱団員の中には不安視する人もいましたが、ソプラノやテノールはこういうのは普通だし、本番を聞けば分かるからと一蹴。案の定、本番では見事な高音をのびのびと披露してくれ、我がことのように鼻高々でした。
合唱団員の中から男女ひとりずつ本番の舞台でのインタビューがありました。それぞれ2分程度感想を述べただけですが、裏話をしちゃうと、オケ合わせ、ゲネプロで間合いや話すスピードなどをチェックし、演出家のダメ出しなどが入るのは、初めての経験でした。たまたま私の隣の同じ声部の団員がインタビューされたのですが、演出家からは話す内容の正確さや、タキシードの前ボタンの閉じ忘れなども指摘されたとか。
言語や歌唱指導には何人もの先生が当たられ、いろいろ学べたのは大収穫でした。人により指導法が異なりますから、そこが一番勉強になりましたね。自分に合った方法、納得の行った方法を採用、いいとこ取りができたのは幸いでした。
アンコールは超有名なメリーウィドウ・ワルツで、首席弦楽奏者だけが奏でる前奏が始まると、もうウルウルしちゃって困りました。その間、マエストロは指揮台を降りて、聴衆と一緒にこの世にも典雅なメロディーを楽しんでいらした様子でした。合唱団も、これで終わりかと思う寂しさをこのメロディーに乗せて、歌の素晴らしさを改めて感じつつ、澤畑恵美さんと歌い終えました。
無事に公演終了となり、本来なら楽しい打ち上げとなるところですが、今回は解団式のみ。合唱団員の控室に充てられた小ホールにマエストロ、ソリスト、演出家、司会者、合唱指導陣、事務局スタッフが集まり、一人ずつ感想を述べられました。みなさん、こういうのは慣れているから、お上手なのですが、バリトンの大沼 徹さんだけ、風変わりな挨拶で一人で笑いを取っていました。なにしろ演奏会、合唱とはまったく関係のない話から入りますからね。ま、毎度のことですが。
その後、団員からのたっての希望で、ソリストたちとのパートごとの集合写真撮影会となり、予定をだいぶオーバーして7時過ぎに解散となりました。本来なら打ち上げで酔い痴れ、大騒ぎとなるところですが、こんな時期に歌えたことに感謝し、美酒は帰宅してからの楽しみに。
これ、プロのカメラマンが正面から撮影しているので、その画像が届いたら、差し替えます。
さて、会場に来ていた我が地元合唱団の何人かから、場内が密だった指摘がありました。確かにこんな時期なので、もう少し席の配置には気配りがあってもよかったのかなあと思いました。
舞台から見ると、中央から前の方に集中していて、後方と2階はガラガラ。2階の中央は販売しなかったと思うのですが両サイド、バルコニーと呼ばれるところもパラパラとして見えなかったので、一工夫すれば、1席ずつ空けるようなことはできたのかなと思った次第です。
大田区文振協スタッフも練習時から感染対策に万全を期して精一杯働いている姿を見ていたので、こういう苦情じみたことは言いたくなかったのですが・・・。