220324 Çiçero トルコ 2019 2時間6分 監督:セルダル・アカル
トルコ映画というのは・・・多分、初めてです。実話に基づいていることと、英文タイトルになっている「キケロ作戦」に惹かれて見ることにしたのですが、うーん、ちょっと期待はずれかも。
それにしても、こんなことが実際に起きていたということが、まず信じられません。要はどこにでもある二重スパイの話であるのですが、脚色があるとは言え、こううまく話が展開していくというのが、ちょっとね、という印象です。
第2次大戦開戦直前の話で、舞台はトルコのイスタンブールです。(撮影も実際にここで行われたようです)
その前に数十年前に遡ったところから物語は始まります。アルバニアの寒村らしきところで、武装した野卑な男どもが戦勝気分に浸り、昼から酒盛りしています。窓の外には死体になった人間や馬が転がっています。時折、動く影があると、男どもが遊び半分に撃ちまくります。
彼らの的の中に主人公イリアス(この時まだ8歳ぐらい)のダウン症の弟がいます。イリアスはなんとか弟を助けようとしますが・・・。
それから一気に時代が下ります。紳士淑女の集まるとある豪邸でのパーティーでテノールの歌声が響きます。これが今のイリアスです。オペラアリア大好き人間、在トルコ英国大使に気に入られ、執事として雇われることになります。ここの筋書きは彼の狙い通りなんでしょう。
まんまと執事として信頼を得たイリアス、大使の就寝中に極秘書類を漁り、ライカに納め、これを在トルコドイツ大使館へ売り込みをはかり大金をせしめようとします。大金は手にしますが、すべてドイツが刷った偽ポンド紙幣でした。ま、金が目当てではないので、そんなことはどうでもいいのです。
一方、ドイツ大使館には運命の女、まさにファム・ファタルとなるコーネリアが大使の秘書として働いています。この女にはダウン症の一人息子がいます。下卑た上司から言い寄られていて、なにかと理由をつけて断ってはいるのですが。
ひょんなことで知り合った二人、互いの素性など分かりません。イリアスは彼女にデートを申し込み迎えにきた時に、彼女の一人息子に会い、弟を思います。そして二人が愛し合う仲になるのに時間はかかりません。
しかし、劇的な展開の中で彼の身元がバレる日がやってきます。その前に、コーネリアはサイテーの上司からダウン症の息子の存在を知られてしまいます。これをネタに彼女に迫るのです。当時、障害者はナチスからユダヤ人同様、抹殺の対象となっていましたから。進退極まったコーネリアが取った作戦が、なんとイリアスと同じなんです。さて、ここからが急展開で、それなりに見せてくれます。
全編トルコ語、時折、英語とドイツ語が混じります。俳優たちは誰一人知りません。ファム・ファタルとなる女優はブルジュ・ビリジクといいます。もちろん初めて見ます。ちょっと華やかで、愁があり、なかなかです。
この時代の連合国vs.枢軸国、そしてトルコとのの関係をある程度知っておかないと、話が分かりにくいかも知れません。トルコは地政学的に、連合側も枢軸側も共に味方にしたいと願う大国です。だからこそ、こうした話が成り立ち得たのでしょう。散々悩んだ末、連合国側につきます。いわゆる勝ち馬に乗ると言うことです。おかげで戦後、戦勝国として存在感を増したことは言うまでもありません。
イリアスの役割は、英独双方に相互の疑心暗鬼を植え付けることでした。そうです、これは相当重要な役割でした。そして目論見通り見事に作戦成功で、開戦となるのです。
役者こそ知っている顔はなかったですが、撮影手法も巧みだし、景色もきれい、見せ場も多く、飽きることはありませんでした。
ただ、この邦題はいただけません。ナチス最悪のスパイなどという陳腐な副題は不要!わが名はキケロだけでいいし、あるいは英語タイトルのオペレーション・キケロの方がよかったでしょう。