ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「タンホイザー」@東京文化会館

240229  バイロイトの常連、アクセル・コーバーと、今やひっぱりだこのヘルデン・テノールの1人、NZ出身のサイモン・オニール、2大スター登場で前評判上々の公演です。

幼少時から耳馴染みのあるメロディーが頻出するオペラですが、生の舞台は初めてなんです。なにしろオペラを見始めて以来のスーパー・イタオペファンだもんで。どうしても暗くて超長いワグナーは敬遠指向が強くて。

でも、今回はコロナ明けでオペラに飢えている時期継続中で、弾みで高額指定券を購入、前から5列目左セクション右端という、私にはベスト・ポジションでの鑑賞となりました。

上のチラシのトップにも表示されていますが、ストラスブールにあるラン(ちなみにランとはライン川を指すフランス語)歌劇場提携ということで、そこのプロダクションをそっくり再現した上演で、コロナ真っ最中の2021年にこの東京文化会館でやっていて、今回はそれの再現。スタッフ・キャストもほぼかぶります。

やはり本場の舞台は違います。舞台デザイン、衣装、照明、すべてラン・オペラ座のものを使用していますし、もちろん演出もオリジナルのままのはずです。たまにはこうした本格的なオペラ公演は見ないといけませんね。

25分ずつの2回の休憩を挟んで3幕ですから、正味3時間という長丁場。覚悟はしていましたが、豪華でスタイリッシュな舞台装置や多数のソリスト陣、合唱団などによる絢爛たる演唱と群舞に我を忘れました。

とは言え、2幕冒頭のバンダによる演奏で一気に盛り上がりましたが、その後に続く歌合戦の場面はやはりワグナーらしく、愚亭にはいささか冗長で眠くなったことは白状しておきます。

パリ版とかドレスデン版とか何種類かあるようで、初めて見る者にはそれらの違いがよく分かりません。ただ、1幕に延々とバレエシーンを入れたのはパリ版のようではあります。

長い冒頭の演奏が終わってからバレエ・シーンとなります。これもまた見せ場の一つでしょう。舞台正面奥にもう一つ小さな舞台(タブローというようです)とでもいうのでしょうか、仕掛けがどうもよく分かりませんが、古典派の名画に見せていて、裸体(に見える肌色のレオタード)の男女が静止画から突然踊り出す演出には驚きました。

そのあとも、このタブローを極めて効果的に多用していましたし、終幕、タンホイザーが犠牲として亡くなったエリーザベトの遺骸に向かって昇天していくところで、暗転して幕となります。いやまあすごい演出でした。

イタオペと違って、第3幕の超有名な「夕星の歌」以外には独立したアリアという歌わせ方をあまりしないので、途中で喝采やブラーヴォがまったく出ないのと、やはり全体にカチッとして、いかにもドイツらしいところがふんだんに出てくる楽劇でした。

ところで、タイトルではタンホイザーですが、劇中、一度もタンホイザーと呼ばれることはなく、ハインリッヒに終始しているのは、どうやらタンホイザーはトロばトーレ(吟遊詩人)のごとく一般名詞的に用いられているからでしょうか。