ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「川村清雄展」@江戸東京博物館

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美術愛好ブロガーを対象にした特別招待をいただき、内覧会へ。正直なところ、まったく知らない画家であったが、作品群を見て、なんと凄い洋画家がこんな時代に日本にいたことに、ある種の感動を覚えたほど。               

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           勝海舟、「江戸城明渡の帰途

黒船来航の前年の嘉永5年生まれ。父親は旗本にして、有能な幕吏。幼くして画才を認められ、幕府開成所で洋画家の手ほどきを受ける。若くして徳川家派遣留学生に選ばれ、パリ、ヴェネツィアで研鑽を積む。最大の庇護者が勝海舟であり、また若い徳川家達(16代目当主)の奥詰に任じられたというから、相当恵まれた境遇であった。

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ヴェネツィアではジョヴァンニ・バッティスタ・ティエポロに最も感銘を受けたそうだ。ティエポロの作品、「聖ガエタヌスに現れる聖家族」(ヴェネツィア・アッカデミーア美術館所蔵)も特別展示されている。               

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徳川家との縁で、篤姫⬆ほか、代々の将軍の肖像画も,独自の鋭い観察眼で仕上げ、勝海舟も大いにこれを喜んだようだ。

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これは「建国」と題する晩年の作品。金地に、神話を想起させる小道具が配されている。彼の作品に感銘を受けた仏人東洋学者レヴィに、是非母国フランスへと乞われた仕上げた作品。どうせなら出来るだけ日本的なモチーフということで、日本神話に題材を取って描き上げたもの。リュクサンブール美術館に収納され、現在はオルセー美術館の所蔵。            

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⬆も晩年の作品「波」。絵の具をペインティング・ナイフでグイッと分厚く塗り付けてある、特徴ある作品。他に、木目のある板に描いた作品もいくつか展示されているが、常に研究心旺盛で、様々な手法を晩年まで試していたことがよく分かる。

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         余りにも有名な福沢諭吉の肖像画も、実は彼の作品。

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⬆「形見の直垂」。最大の恩人である勝海舟の葬儀に彼が着用した直垂をモチーフにした作品。少女が指し示す先にあるのは勝海舟の胸像。

川村とは直接的な関係はないが、同時代の作品と言うことで、シチリア人、Vincenzo Ragusaの「日本婦人」(1880年頃)という胸像が展示されていた。例のラグーサお玉のダンナである。当時としては随分大胆なポーズということになろうが、外国人が見る日本女性はこう映るのかと思うと、感慨深いものがある。

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冒頭、江戸東京博物館館長が、美術館でなく博物館ゆえに、出来る限り川村清雄に関する資料を内外から集め、これを立体的に展示する手法を最大限用いたと述べられた通り、彼の生涯を通じて絵画作品のみならず、生活臭の漂う小物まで事細かに展示されている。216点もの展示物による回顧展は、彼を知る得難い機会だ。